良い解決策やアイデアが生まれないとき、間違っているのは「問い」かもしれない
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正しい答えを手にするための鍵は、正しい問いにある――MIT所属、世界的イノベーティブシンカーとして知られるハル・グレガーセンが、世界中の200人以上の実業家や思想家を研究して書いた新著『問いこそが答えだ!』。いま問いが必要とされている理由を明かし、職場や地域や家庭において状況を打開する問いの効能について語る本書から読みどころを抜粋、再構成してお届けします!

 

 

最近 10年間、学者として、コンサルタントとして、コーチとして、わたしは企業のイノベーションに関心を持ち、スタートアップ企業や老舗の大企業で新しい問いを立てることにどういう効果があるかを研究してきた。25年前、初めてクレイトン・クリステンセン――破壊的イノベーション理論で名を馳せたハーバード・ビジネス・スクールの教授――と言葉を交わしたときの話題は、どうすれば正しい問いを立てられるかについてだった。以来、クレイトンとの共同研究を通じて、ブレークスルーに問いがどういう役割を果たしているかについて、わたしの知見は磨かれてきた。

 

わたしたちがふたりとも刺激を受けたのは、ピーター・ドラッカーの論文だ。ドラッカーはいまから50年以上前に問い方を変えることの強力さを見抜き、次のように書いている。「いちばん重要で、なおかつむずかしいのは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを見つけることだ。誤った問いへの正しい答えほど、むだなもの――危険ではないにしても――はない」と。クレイトンとわたしとジェフ・ダイアーで「イノベーターのDNA」を構成する5つのスキルを突き止めたとき、その中で第一のスキルと考えられたのは、多くのことを問う習慣だった。

 

わたしたちがインタビューした革新的な起業家たちの多くは、新しい事業を始めるきっかけになった問いをはっきりと覚えていた。例えば、マイケル・デルはパソコンの値段がパーツの値段の合計金額の5倍もするのはなぜかという疑問から、デルコンピュータを立ち上げることを思いついたと語っている。「パソコンを分解して、計算してみたら、合計600ドルのパーツでできたパソコンが3000ドルで売られていることがわかったんです」。そのときに「なぜそんなに高くなくてはいけないのか」という問いが頭に浮かび、やがて業界に一大旋風を巻き起こすことになるデルのビジネスモデルがひらめいた。

 

ほかには、常識や慣習に楯突かずにはいられない生来の性格が起業の理由だと話す起業家もいた。「わたしの学習のプロセスはいつも同じです。いわれていることに異議を唱えて、反対の立場を取り、いわれていることがほんとうに正しいかどうか、みんなに確かめてみるよう求めるんです」といったのは、イーベイの創業者、ピエール・オミダイアだ。「そんな子どもでしたから、ほかの子どもにはかなり嫌がられましたよ」。革新的な起業家たちは、どういうふうにものごとが変わりうるかを想像するのが好きなのだ。世の中で今、真実と思われていることに疑問を持ち、ほんとうにそうなのかどうかを問うことが、独創的な考えを生み出すにはいちばん確かな方法になる。

 

ここ数年、わたしがますます確信するようになってきたのは、企業のイノベーションや組織の改革以外でも、そのようにちがう視点から問うことが役に立つということだ。生活のあらゆる場で、新しい洞察を引き出したり、ポジティブな行動の変化を起こしたりできるふしぎな力が問いにはある。どんな問題に直面していても、問うことによって、行き詰まりを打開し、新しい方向に進み始めることができる。

 

視覚障害者の「強み」を生かすには?

2017年3月、上海にオープンした新しいエンターテインメント施設の最初の来場者たちは、入場したとたん、それまでに体験したことのない世界にたちまち大興奮した。まず、音楽と詩を融合させたコンサートがあり、座ってそれらの調べに耳を傾けた。次に、街中によくあるものを再現したアトラクションをめぐった。公園があり、ボート乗り場のある池があり、青空市場があり、子どもの遊び場があり、客の声でにぎわうカフェがあった。なぜこれで興奮するのかわからない? じつはここは完全な真っ暗闇になっているのだ。来場者たちはあっちにぶつかり、こっちにぶつかりした。笑いながらも、みんなおろおろするばかりだった。誰ひとりとして、有能な専門ガイドの助けなしには前に進めない。そのガイドとはもちろん、視覚障害者たちだった。

 

 

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というこの施設はアンドレアス・ハイネッケによって考案されたもので、最初は1989年、ドイツのフランクフルトで開設された。現在では、ハイネッケが設立した社会的企業によって、数十カ国で運営され、視覚障害者の雇用を創出するとともに、健常者に視覚障害者の日常生活を理解させるのに一役買っている。すでに来場者の数は何百万人にも達しており、これまでに多くの人がここで人生が変わる体験をした。

 

これらのすべての始まりは一つの問いだった。約30年前、ラジオ局に勤めていたハイネッケは上司から、ある元社員がふたたび局に戻ってくることになったと伝えられた。元社員は交通事故に遭って、失明し、退社を余儀なくされたのだが、また働きたいのだという。ハイネッケはその職場への復帰の手伝いを任された。そのような障害のある人を介助した経験がなかったので、荷が重い仕事に感じられたが、それでもさっそく、どうすれば視覚に障害がある人でもそれなりに仕事ができるかという問題の解決に取り組んだ。しかし新しい同僚と親しくなるにつれ、自分が立てた問いがあまりに後ろ向きなものであることに気づくと、次のように問いをもっと前向きなものに変えた。視覚障害者が強みを発揮するためには、どのような職場の環境を築けばいいか。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアイデアがひらめいたのはそのときであり、それはやがて彼のライフワークへと発展することになった。

 

飛躍的な進歩はこのように生まれる。問いの角度を変えることで、問いは変化の触媒になる。そうすると発想の幅を狭めてしまう固定観念などの思考の壁が取り払われ、創造的なエネルギーがどんどん生産的な経路へと流れ込む。その結果、もはや打つ手がないとあきらめていた人がふいに新しい可能性を見出し、がぜんそれに向かって突き進み始める。

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この記事の書籍

問いこそが答えだ!

問いこそが答えだ!正しく問う力が仕事と人生の視界を開く

ハル・グレガーセン/著  黒輪篤嗣/翻訳

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