akane
2019/03/28
akane
2019/03/28
前回のコラムでは、NCの歴史上、重要な2つの発明について触れましたが、開発の中で、富士通が東大とのオープンイノベーションに成功して、「代数演算パルス分配方式」を発明したことを述べました。
今回のコラムでは、最近、何かと耳にすることの多い、この「オープンイノベーション」について考えてみたいと思います。
オープンイノベーションは意味の広い概念ですが、大学との連携のみならず、他の民間企業や新興企業なども含めて、広く外部の経営資源を活用して研究を進めることの総称です。
これは、自社内の経営資源だけで研究開発を行う、いわゆる「自前主義」と対極的にとらえられることが多いといえます。
そして今日、オープンイノベーションの必要性が広く喧伝される背景には、日本企業に多く見られる「自前主義」が海外企業に遅れを取る一つの要因だという暗黙の前提のようなものがあるようです。
その前提への賛否は別にしても、日本政府はオープンイノベーションを促進させるために、いくつかの政策的支援を行ってきました。その一つは、企業の研究開発に要した費用の一部を法人税から差し引く「研究開発税制」によって、企業の共同研究を後押ししようとする税の優遇政策です。
例えば、大学との共同研究を行う場合は30%が控除され、他の民間企業との共同研究の場合、控除率は20%になります。大学との共同研究の控除率が高いのは、大学と企業との共同研究をより活性化させたいという政府の意図の現れでもあります。さらにマスコミの報道によれば、既存企業と新興企業との共同研究を一層後押しするために、控除率を現在の20%から30%に拡充する方針を、政府は2019年度以降に打ち出す予定だといいます。
こうした税制面での誘導もあって、たしかに、大学との共同研究の件数は近年、増える傾向にあります。しかし、イノベーションの実現、つまり経済的価値を生み出すところにまで辿り着く件数は少ないといえるでしょう。
つまり、いくら共同研究が増えても、研究成果が研究成果のままで終わってしまい、事業成果につながらない場合が多いということです。
その大きな理由は、研究成果が企業組織の中で評価されずにつぶされてしまう場合が多いことにあります。研究成果を実際の事業化にまで持ってゆくには、さらなる事業開発の時間とコストがかかります。
そのためには、企業は共同研究成果の価値を評価して、それを育成するための持続的な投資を行う必要があります。そして、それは研究開発部門だけで完結してできることではなく、事業部等の他部門の協力が必要になってきます。しかし、企業組織の中では、部門を超えた協力は容易ではないという事情も、一方では存在するでしょう。
さらに、研究成果から予想される将来の事業規模が企業の規模に比べて小さければ、大企業であればあるほど投資を継続するそもそもの動機自体は薄れることになります。しかし、大企業の動機をつなぎとめるだけの事業規模が確実視される事業は、初期段階では多くはないものです。これもまた、研究成果が組織の中で評価されずにつぶされてしまう理由です。
このようないくつかの障壁によって、共同研究の件数自身は増えても、それがイノベーションにつながらないというジレンマが生まれることになります。
つまり、新事業と新産業の創造にはつながらないということです。
では、それらの障壁を超えるためにはどうすればいいのでしょうか。
それには、共同研究がスタートする時点で、そもそも何のために、何を実現するために共同研究をするのかという目的と出口を明確にして、それを大学と企業間で共有する必要があるのです。
前回のコラムで述べた、富士通と東大の共同研究がイノベーションにまで達することができたのは、数値制御技術の向上によるNC事業への創造という目的と出口を明確に共有していたからに他なりません。
すなわち、目的と出口を明確にしない共同研究は、単なる研究のための研究に終わってしまいがちです。
「何か新しいことを一緒に始めませんか?」などと共同研究を安易にスタートさせたとしても、それでは実のある成果に結びつくはずはないのです。(つづく)
※以上、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』(柴田友厚著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.