日本ではスタートアップ企業が育たない。その深刻な理由
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 日本では、年間40万人にも及ぶ人口減が問題として騒がれているが、実は企業数も急激に減少している。

 

 2017年版中小企業白書によると、99年には484万社あった企業数が、09年には421万社へ、さらに14年には382万社へと減っている。15 年間で実に100万社以上の減少である。

 

 09年から14年で見ると、開業数は66万社、廃業は113万社であった。中小企業の経営者の高齢化が進んでいることを考えると、廃業数が増えるのは仕方がない。問題は、開業数が増えないことである。特に、将来の大企業に発展していく可能性のあるIT、バイオテクノロジー、ロボティックス等のスタートアップ企業の不足は深刻である。

 

 なぜ、日本でスタートアップが育たないのか。

 

 まず考えられるのは、ベンチャー・キャピタルが育っていないことである。

 

 ベンチャー企業の16年の資金調達額は2099億円、そのうち950億円をベンチャー・キャピタルが占めている。14年の資金調達額が1390億円、15年は1716億円であったから、順調に伸びてきていることは間違いない。

 

 しかし、アメリカの状況と比較してみると、その差に愕がく然ぜんとする。

 

 アメリカのベンチャー企業の16年のベンチャー・キャピタルからの資金調達額は7兆5900億円、実に日本の80倍である。18年には、アメリカでは11兆円の投資が行われた。ファンドの規模の小ささは、1件あたりの投資規模の小ささにつながり、スタートアップ企業は十分な資金を得ることができず、事業展開に苦しむことにつながっている。

 

 その上、アメリカのベンチャー・キャピタリストが、その道のプロであるのに対し、日本のベンチャー・キャピタルは銀行系だったり、証券系だったり、キャリアとしてその道を追求している人が少ない。結果として、ベンチャー・キャピタルから得られる経営の支援もピントが外れていることが多い。

 

 SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)は、シリコンバレーで日本の存在感を示すことができたが、その投資先はシリコンバレー、インド、中国ばかりで、日本への投資は行われていない。つまり、ソフトバンクがあり、SVFが組成されても、日本市場でのスタートアップ不足、資金提供不足の問題は解消されていないのである。

 

 次に考えられるのが、エンジェル投資家の不在。シリコンバレーには、こうしたエンジェル投資家が多数おり、創業間もない企業や大学の研究者に出資してくれる。これに加えて、彼らは自己のネットワークを使って人材を紹介してくれたり、自己の成功体験に基づいて貴重な経営のアドバイスを行ってくれる。

 

 もう一つアメリカと日本の大きな違いは、スタートアップ企業の出口が、IPOの他にあるかどうかという点にある。

 

 日本では、最近でこそ、大手企業によるスタートアップ企業の買収が見られるようになったが、基本的には、スタートアップ企業の出口はIPOしかなかった。そのためには、社内体制整備のために多大なコストをかけ、長い準備期間を経る必要がある。

 

 一方、アメリカでは、グーグルやアマゾンが新技術を取り込もうと、次々にスタートアップ企業のM&Aを行っているので、シリコンバレーでは、ベンチャー・キャピタルから出資を受けたスタートアップ企業の9割がM&Aでどこかの会社に買収されている。

 

 こうして資金を手に入れた起業家は、次なる起業に取り組むシリアル・アントレプレナーとなったり、エンジェル投資家となって他人の事業を支援したりする。そこから、また成功者が出てきて、彼らが、またシリアル・アントレプレナーになったり、エンジェル投資家に育っていくという好循環が出来上がっている。

 

 これが魅力的に映るから、世界からアントレプレナーが集まり、投資資金も集まってくる。そのお陰で、さらに情報交換が活発になり、人材が育っていく。これがシリコンバレーのエコシステムである。

 

 残念ながら、日本にはこうした好循環が存在しない。成功したアントレプレナーの数は少なく、彼らの持つ資金も少ない。大企業がスタートアップ企業を買収する試みが増えてきているが、大企業の持つ給与体系や人事制度は古く、スタートアップ企業で働く人にはなじまない。結局、人が辞めていき、スタートアップ企業の輝きは消えていく。

 

 これが日本の現実である。こうした事態を何とか解決しないと、企業がどんどん減っていき、残る企業は旧来型の技術や経営方法しか持たないアウト・オブ・デート(時代遅れ)な企業ばかりとなってしまう。

 

 

以上、『日米ビジネス30年史』(植田統著)を抜粋・一部改変して掲載しました。

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