イノベーションを起こせるのは、スタートアップ企業だけではない
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現在の日本企業が直面している最重要課題の一つは、いかにして新事業を生み出すことができるのかということでしょう。

 

日本企業がどれほど新事業を切望しているのか、そのことを私が痛切に思い知ったのは、2016年の9月から10月にかけて、東京大学の馬場靖憲教授(当時。現在、麗澤大学特任教授)らと日本を代表する大手製造100社以上に対して行った研究開発の実態調査からでした。

 

そのアンケートの質問項目の一つには、CTO(Chief technology officer、技術担当役員)の役割と責任について聞いた項目があったのですが、なんと8割以上の回答者は、新規事業への関与をCTOの最も重要な役割として挙げていたのです。

 

既存製品や既存事業の改良・改善による成長ではなく、新規事業の創造による成長こそを最大の役割だと考えているという発見は、私にとっては新鮮な驚きでした。別の見方をすれば、日本企業がそれほど新事業の開拓に困っていることの表れなのかもしれません。

 

さらに興味深いのは、そのような役割を期待されているCTOに必要とされる最も重要な知識・能力は一体何か、という質問に対する回答結果でした。

 

つまり、工学的知識でも科学的知識でもなく、経営的知識こそが何よりも重要だという回答が最も多かったのです。

 

技術に責任を持つCTOであることを考えると、技術的知識こそがCTOにとって最も重要だと考えてしまいがちではないでしょうか。

 

しかし、実際はそうではなかったのです。CTOの責任を全うするためには、経営的知識のほうが技術的知識よりも重要であるとCTO自身が考えていたのです。アンケート調査回答者の6割はCTO自身でした。

 

しかし、よくよく考えてみると、この回答には頷けるところがあります。CTOの最も重要な役割が新事業の創造であるとするならば、確かに個別の技術的知識よりも経営的知識の必要度のほうが高いかもしれないからです。

 

既存企業もイノベーションの担い手になれる

 

このコラムで述べてきた工作機械産業において、産業革命以来最大の技術革新といわれるCNC装置の革新史から、新事業を生み出すために一体何が学べるでしょうか。それを考えることは意義のあることと思います。

 

まず、押さえておきたいのは、革新史の主役であるCNC装置もMPUも、当時は世の中に存在しなかった技術であり、その意味ではまったく新しい技術であり製品だという点です。既存製品の延長線上で改良・改善の結果、生まれた製品ではないのです。そうではなく、CNC装置もMPUも、不連続的な飛躍を遂げた技術であり製品コンセプトでした。それゆえに、世の中に大きな影響を与えたのです。

 

そしてそれを実行したのは、スタートアップ企業ではなく、富士通やインテルなどの既存企業でした。CNC装置の場合は富士通社内の新規事業として始まりましたし、MPUの場合は、当時DRAMを主力事業としていたインテルの社内事業として始まり、成長したのです。インテルは半導体メモリを製品化するために作られた企業で、当時はDRAMを主力事業としていました。

 

つまり、世界に大きな影響を与えたこの二つのイノベーションは、いずれも既存企業内の新規事業として始まったのです。

 

イノベーションというと、その担い手としてスタートアップ企業を連想する傾向が強いと思われますが、この場合はそうではありませんでした。

 

既存企業は改良・改善型のイノベーションには強いが、不連続的なイノベーションには弱いという通説があります。

 

しかし、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』で描いた革新史は、既存企業もまた、不連続的で革新的なイノベーションの担い手にも十分になれるはずだということを、改めて想起させてくれます。

 

日本を代表するトヨタ自動車もまた、豊田自動織機の社内部門として始まったのであって、決してスタートアップ企業として始まったわけではないということを忘れてはなりません。

 

ただし、そこには「優れたマネジメントがあれば」という前提条件が付くことはいうまでもありません。

 

次回のコラムでは、当時のファナックとインテルの経営を振り返りながら、新規事業を生み出し育成するポイントを二つほど指摘したいと思います。

 

※以上、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』(柴田友厚著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

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日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略

日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略「工作機械産業」50年の革新史

柴田友厚(しばたともあつ)

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