「山奥ニート」のリアル#11 人間関係に行き詰まらないワケ
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BW_machida

2020/07/02

 

和歌山県の限界集落で集団生活を営む「山奥ニート」。
集落のお爺さんやお婆さんのお手伝いなどをしてお小遣いを稼ぎ、なるべく働かずに生きていくことを実現した彼らの暮らしを、『「山奥ニート」やってます。』(石井あらた著・光文社)から全12回にわたって紹介します。

 

山奥ニートはおおむね仲がいい。喧嘩することは滅多にないし、そもそも嫌なら無理に関わることもない。

 

全員で共同作業をすることがあるわけじゃないし、話したくない気分ならずっと部屋にひきこもっていればいい。

 

あらゆることが自分のペースでできるし、みんなが作るごはんはおいしいし、持ち寄った漫画やゲームがたくさんあって遊び尽くせないほどだ。

 

それでも山奥を去っていく人はいる。

 

ここに不満を感じて去っていくというよりは、就職が決まったり、家族の事情で実家に帰ったりすることがほとんどだ。

 

だけど、こちらから出ていってくれと言ったことがないわけじゃない。

 

そこまで言うのは2つのパターンだけだ。

 

ひとつ目はお金が払えなくなったパターン。共益費と食費を何ヶ月も滞納して払える見込みもなかったので出ていってもらった。

 

山奥ニートの生活費は月に1万8000円。

 

この安い生活費を払えないのは、お金がないのではなく、支払いに対する優先順位が低いんだと思う。

 

本当にお金がないなら、生活保護を受けるべきだ。

 

お金がないって言う人ほど、趣味のものにはお金を使っていたりする。

 

ニートがニートを養うのは無理なので、こういう場合は出ていってもらう。

 

もうひとつは、暴力を振るうパターン。

 

ただ、これはなかなか微妙な問題だ。

 

殴った蹴ったというならわかりやすい。問答無用で出入り禁止だ。抵抗にあうかもしれないけど、こちらは10人以上。実力行使で負けることはたぶんない。みんなもやしっ子ばかりだから自信はないけど。問題は、暴力とは何かってことだ。グーで殴るのは問答無用で暴力だとして、平手打ちは暴力と言っていいんだろうか。たとえばそれが浮気していた彼氏に彼女がした仕打ちでも。

 

少し前、喧嘩があった。山奥ニート同士で喧嘩になることは本当に珍しいことで、今までで数回しかない。

 

そのとき、激怒した一方が、相手の唇にチューをしたのだ。

 

ちなみに男同士だ。

 

普段から暴力を振るった人は追い出す、と言っている。

 

カッとなって手を上げそうになった彼は、残っていた理性で暴力じゃない方法で相手にダメージを与えようとしたんだろう。

 

同性に対する強引なキスは暴力に入るんだろうか……。

 

法的には暴力に入りそうだけど、この場合どうしたもんか。

 

2人の間に割って入りながら、うーん、微妙なラインついてくるなと妙に感心してしまった。その人は後日、別件であまりにも暴言がひどかったから、出ていってもらった。

 

何が暴力かの判定は難しい。

 

人を怒鳴りつけるのは? 言葉で傷つけるのは? ものを投げつけるのは? 胸ぐらを掴むのは? 

 

法律ですら、はっきりと決まっているわけじゃない。

 

結局のところ、今の山奥ニートの間では、僕を始めとした古参3人による独裁政治になっている。

 

何かを決めるときは(そんなこと、一年に一度あるかないかだけど)、3人で相談して決める。

 

シェアハウスは独裁制がいい、と思う。

 

国と違って、シェアハウスは合わなければ自由に他のシェアハウスに移ることができる。引っ越しが簡単なのは、シェアハウスの利点のひとつだ。

 

少人数での民主主義ってのは最悪だ。

 

それは、その場の雰囲気で物事が決まることを意味する。

 

十分な議論なんていつまで経ってもできないし、なんとなく誰にも責任が来ないような結論が選ばれる。

 

今はもう、僕と気が合う人だけが集まればいいと思っている。

 

多様性だの、グローバル化だの言われているけど、たくさんの種類の生き物を飼うには、小さな水槽をいくつも用意するのが一番だ。

 

大きな水槽ひとつだけだったら、大きな生き物が小さな生き物を全部食べてしまう。

 

僕らのような小さくて弱い生き物が生き残るには、自分と同じ種類の生き物同士で集まるのが一番いい。

 

そうすることで、自分の周りに集まった同じ種類の生き物たちも、気分良く過ごすことができる。

 

まぁこれは国や会社だったら、別の話になるんだろう。

 

僕らはニートで、嫌な人と無理に付き合う必要がないから、こんなことが言えるのだ。

 

今のところ、この方法は上手くいっていると言える。

 

僕ら3人とも、権力を使うのはとても慎重だ。

 

言い換えれば、あんまり他人に興味がない。

 

これは山奥ニートの大多数に言えることで、それゆえ仲良くなりすぎない、適度な距離感になっている。

 

部分的にあまりに仲が良くなると、他のそれほど仲が良くない人の陰口を叩き始めたりするんだろうけど、今のところはそういうことはないと思う。少なくとも僕の耳に入ってきたことはない。

 

まぁ隠れて言っているのかもしれないけど、悪口が陰で言われているならそれは健全だと思う。

 

そういえば、シェアハウスの運営の大先輩である、ギークハウス発起人のphaさんに聞いてみたことがある。
シェアハウスで起きたトラブルにはどう対処してるんですか、って。

 

返ってきたのはこんな答え。

 

「まぁ、殺し合いにならないなら、放っておけばいいんじゃない」

 

うーん、ここまで達観できるのはすごい。

 

僕もあと10年続けたら、そんな境地に達するんだろうか……。

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「山奥ニート」やってます。

「山奥ニート」やってます。

石井 あらた

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