マサイ族の青年が原稿料で井戸を建てる!ロケットニュース伝説の企画

るな 元書店員の書評ライター

『マサイのルカがスマホで井戸を掘る話』学研プラス
ルカ・サンテ GO羽鳥/著

 

 

人生の風向きが変わる瞬間ってある。
それは何も奇跡のような大それたことが起こらなくても、例えば誰かに出会うとか誰かに言われたほんの些細な一言とか、そういう時にも起こる。
私もまさにそういう事があって、ほんの数か月前までははただの知り合いだった人が生活の中に入ってきてくれたおかげで、同じ場所に立っているのに景色が変わって見えている。
あの時言ってよかった。そして、それを受け入れてくれたことに、本当に感謝する毎日だ。
幸運も不運も、本当に突然降ってくる。

 

さて、日本から遠く離れたマサイ族の戦士ルカさんにも、そんなたった一人との出会いが訪れて、彼の人生は180度変わった。
ルカさんがライオンと戦っていた。かどうかは知らないが、2015年の夏、日本では
ロケットニュース24 の編集者羽鳥さんは、会社で最強のマサイ族を見つけてこい!と言われ、一路ケニア最果ての地アンボセリを目指していた。
無事たどり着いた羽鳥さんは、そこにいたルカさんに事情を説明し、
ルカさんは、まずマサイを紳士的に案内してから最強の男を紹介した。
その「最強のマサイ族」は、マサイvsライオン ガチンコ勝負に3勝もしたそうで、
ちなみにルカさんは1勝なんだとか。(現在は戦っちゃいけないらしい)
そうこうするうちに、いよいよ羽鳥さんが帰国するその時、ルカさんは
「集落の井戸が枯れたんだ。素晴らしい日本の人、井戸を掘るお金援助してくんない?」
とお願いをしたが、
羽鳥さんは「イヤ。ムリ。そんな金ないし、お前は素晴らしいマサイの戦士だと思ったのに、乞うとかやめてくれよ。自分で稼げよ」と言い放った。
しかし、羽鳥さんは次にこうも言った

 

「面白い記事をスマホで送って来てくれないか?君はネットライターになるんだよ。
その原稿料で、井戸を掘れ。」

 

かくしてルカさんは集落でたった一人、マサイ史上初のスマホネットライターとなった。
充電は?電波は?そもそも使い方わかるの?
何語に設定するの??見渡す限りの大自然の中、
スマホはちゃんと機能するのか。そして、ルカさんは無事井戸を掘れたのか?
が本書に書いてあります。

 

とにかくもう全ページ面白いんで、立ち読みする方や買った方は、読む時本当に気をつけてください。
何が面白いって、ルカさんが撮った変な写真と羽鳥さんの超訳。
この写真がひたすら地面とか木とかが延々と連写されていたりするそうだから、選ぶ方も大変だ。
インスタ映えしない、狙っていない写真て面白いですね。
また、それだけでなく、マサイの恋愛事情やビジネス、ライフスタイルも垣間見えてくる。
神様やゾウやライオンこそ出てくるあたりはちょっと日本とは違うけど、普通の青年となんら変わりはないし、むしろ戦う彼らはカッコよくて痺れる。

 

きっとルカさんは、まさか自分がスマホでネットライターになるなんて思いもしなかったはずだ。
井戸を直すお金頂戴よ、と乞うたことはその一瞬は恥だったかも知れないが、
二人の人間の人生を変えた。
あの時の恥がなければ繋がることはなかったし、この本だって、生まれなかった

 

赤道をまたぐ大自然の国ケニア。
そのマサイの戦士ルカ・サンテから届き続けた「リアルタイム・マサイ」
笑って驚いて、感動してください。
なんでも言ってみるもんだ。

 

『マサイのルカがスマホで井戸を掘る話』
学研プラス
ルカ・サンテ GO羽鳥/著

この記事を書いた人

るな

-runa-

元書店員の書評ライター

関西圏在住。銀行員から塾講師、書店員を経て広報とウェブライター。得意なのは泣ける書籍紹介。三度の飯のうち二度までは本!

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