抱腹絶倒!オバマ大統領の爆笑スピーチの舞台裏
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米国ワシントンでは毎年、著名人やセレブリティが招かれた盛大なホワイトハウス記者晩餐会が伝統行事として開かれています。中でもその目玉は、大統領によるジョーク満載のスピーチ。歴代大統領の中でもとりわけオバマ大統領のスピーチは、出色の出来栄えです。大統領の若きスピーチライター、デビッド・リット氏による『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!』から、「オバマ大統領の怒りの通訳者」が登場した伝説のスピーチの舞台裏を紹介します。

 

 

僕のようなスタッフがホワイトハウスのパーティに押しかける理由は、主に二つある。料理と有名人だ。二〇一四年のある晩、僕はこの二つの目的を達成した。エッグノッグ(訳注:牛乳に卵と砂糖を混ぜた飲み物)やジンジャーブレッド・ハウス(訳注:ジンジャーブレッドなどで作ったお菓子の家)を横目に、ある著名人に狙いをつけ、ラム・チョップとカリフラワー・マカロニ&チーズの間にその人物を追い詰めたのだ。標的になったのは、コメディアンのキーガン=マイケル・キーである。僕は早速話しかけた。
「大統領にジョークを提供している者です。『キー・アンド・ピール』の大ファンなんです」(訳注:『キー・アンド・ピール』は、当時コメディ・セントラルで放送されていたキーガン=マイケル・キーとジョーダン・ピールのコント番組)

僕は運がよかった。キーガンは、コメディ・セントラルの人気番組のスターというだけでなく、今まで見たこともないほど陽気な人物だった。
「そう、挨拶してくれてありがとう!」キーガンは、心からそう思っているような口ぶりでそう言った。

「大統領もあなたの番組を気に入ってますよ。一緒にお仕事をする機会があるかもしれませんね」。僕はキーガンにメールアドレスを教えてもらい、お礼のメールを送った。だがそれ以来、キーガンのことはすっかり忘れていた。

キーガンにうそを伝えたわけではない。大統領は本当に番組のファンだった。特に、番組に繰り返し登場する「オバマの怒れる通訳者ルーサー」というキャラクターがお気に入りだった。共演者のジョーダン・ピールが、そのトレードマークである冷静さを生かして大統領に扮し、スピーチをすると、一文ごとにキーガンが割って入り、大統領が経験しているばかげた事態について不満をまくし立てる、というコントだ。僕は毎年、記者晩餐会の台本を任されるたびに、現実の世界で大統領とルーサーを共演させられないものかと密かに考えていたが、タイミングに恵まれなかった。二〇一二年には、オバマが内心では怒っていることを示したいという状況ではなかった。二〇一三年には、二週間前にボストンマラソン爆弾テロ事件が起きたばかりだった。二〇一四年には、オバマケアのウェブサイト問題のあとだったため、謙虚な姿勢が必要だった。

だが、二〇一五年は? バケツに入れろ(もうやけくそだ)! 僕は受信箱からキーガンのメールを探し出し、連絡を取った。

すると数日後に返信があった。ルーサーは喜んで協力するという。僕は急いで台本をこしらえた。ロベットもハリウッドからジョークを送ってくれた。翌日、僕はコディとともにオーバルオフィスに出向き、大統領に原稿を見せた。すると大統領は、怒れる通訳者のセリフを練習する必要などないのに、わざわざセリフを読み上げ、愚痴を発散して楽しんだ。

「おまえら全員ばかか!」大統領は指で空を切りながら、架空の記者団に向けて言った。すでにこのルーサー関連のジョークの採用を決めたようだ。また、スピーチの数段落後にエボラ関連のメディア報道に対するジョークを書き足した。

 

あれ何だったかな? 大統領としての地位はおしまいだと言われた一五回のうちの一回
なんだけど。

 

大学時代、即興コントグループのショーの前にウォーミングアップをしていると、揺るぎない自信が満ちてくることがときどきあった。そんなとき僕たちは、そのショーが大成功する未来を目の当たりにしていた。この大学の控え室で起きたことが、オーバルオフィスでも起きた。

オバマ大統領が原稿を最後まで読み終わると、特別な出来事の間際に生まれる、あのうきうきとした感覚が内心に湧き起こるのを感じた。
「明日の午前にまた確認に来たほうがいいでしょうか?」とコディが尋ねた。これまでは、スピーチ当日の正午前後に最後の打ち合わせをしていたからだ。ところが大統領は首を振った。

「いや、いいよ。実を言うと、このスピーチはめちゃくちゃ得意なんでね」

翌日の午後、詮索好きな記者たちの目を避けるため、キーガンをウエストウィングにこっそり入れ、コディのオフィスに隠した。そして、記者たちが晩餐会前の歓迎会に出かけたことを確かめると、リハーサルのためレジデンスに向かった。

マップ・ルームに演壇が設置されていた。五か月前に大統領が移民対策のスピーチの練習をした場所だ。だが今回の大統領はタキシード姿で、かなりリラックスしていた。何年もお笑いコンビを組んでいた相手と話すように、キーガンと雑談している。

ところが、リハーサルが始まると問題が発生した。大統領が笑いをこらえられないのだ。

「覚悟はいいか。そのなまっちろいケツをじっくり据えて聞けよ」とキーガンが叫ぶ。ロベットがハリウッドから提案したこの言葉が、その晩のルーサーの最初のセリフだったが、それを聞くと大統領は思わず吹き出した。

「わかってる、わかってる。笑わないようにしないとな」

だが大統領には、その約束ごとがどうしても守れず、毎回吹き出してしまった。「ちょっとツボに入っただけだから。本番では気をつけるよ」

五、六回の中断を繰り返してようやく、台本の最後のページにたどり着いた。この部分には少しひねりを加えていた。ここで大統領は、地球温暖化否定論者の議員に意見を述べ始めるが、やがて怒りを抑えきなくなり、次第に激昂していく。そして、しまいにはルーサーさえ大統領の憤怒を抑えられなくなってしまう、という筋書きだ。

「この部分は難しくない」と大統領はキーガンに請け合った。「本当に腹を立ててるからね」。

それから少し考え込むようにして言った。

「とにかく、笑わないようにしないと」

しかし、その点はやはりどうにもならなかった。二回目のリハーサルの間も、大統領は一回目と同じように笑いをこらえきれなかった。もう、これ以上練習している余裕はない。僕は大統領とキーガンの間に入り、最後の修正箇所を手早くメモした。そしてそれぞれ車に跳び乗ると、スピーチが行われるヒルトンホテルへと急いだ。会場に着くと、大統領は主賓席に着いた。キーガンは自分にあてがわれた部屋に入り、グレーのスーツを着て、金の指輪を八つ指にはめた。僕はいつものように、晩餐会の間中、気体分子のようにそわそわと飛びまわっていた。偶然にも、たまたまカーテンの陰に立っていたときに、大統領が舞台裏にこっそりやって来た。僕と目が合うと微笑み、首を振りながら言う。

「ブレイクしないようにしないとな」

大統領が、ネタの途中で笑ってしまうことを意味するお笑い用語を知っていたことに驚いた。だが、次の言葉には驚かなかった。

「で、受けるかな?」

これは、オバマ大統領が何年も前からよく尋ねてくる質問だ。これまでは、返答に詰まるのが常だった。だが今回は、完璧な返答ができた。僕は、大統領が五か月前にルーズベルト・ルームでスタッフに行った叱咤激励を思った。行く手にどんな障害があろうと、自分の言葉を語り、自分の歴史を刻もうとする大統領の決意を思った。第四四半期に残されたこれからの二〇か月を思った。そしてニヤリと笑いながら、アメリカ初の黒人大統領の目をじっと見て言った。

「覚悟しておいてくださいよ。あのなまっちろいケツが飛び跳ねますから」

 

 

これを読んで気になった方はぜひ、本番のスピーチもご覧になってみてくださいね。

『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに!?』 は、「オバマ大統領の笑いのミューズ」と呼ばれたスピーチライター、デビッド・リットが。オバマ大統領の素顔とホワイトハウスの内幕、そして歴史に残る名演説の舞台裏をユーモア溢れる筆致で描き出します。

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この記事の書籍

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

デビッド・リット(David Litt)著/ 山田美明(やまだよしあき)訳

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