2018/05/18
戸塚啓 スポーツライター
『プーチンとロシア人』産経新聞出版
木村 汎/著
サッカーワールドカップの取材で、6月にロシアへ行く。現地での仕事は日本代表の結果などによって変わってくるが、3週間から1か月以上の滞在になる。
スポーツの取材で、60以上の国を訪れてきた。ヨーロッパはメインの渡航先なのだが、ロシアは極東のハバロフスクしか行ったことがない。僕にとっては馴染みの薄い国なので、木村汎『プーチンとロシア人』(産経新聞出版)を読んでみることにした。ウラジミール・プーチン大統領はもちろん、ロシア人のメンタリティを知りたいと思ったからだ。
ロシア人は矛盾した感情や衝動を抱えているそうだ。
自由を求めながら、自由で居ることに必ずしも居心地の良さを覚えない。
楽天的でありながら、未来への不安を抱く。
溢れんばかりのバイタリティーを感じさせつつ、心を閉ざしがちである。
粘り強さがあるものの、諦めが早い──。
柔道家であることから親日家の印象もあるプーチン大統領も、実際は日本に心を許しているわけでなく、獲物を狙うような冷たい眼で私たちを見ているらしい。
ロシア人のメンタリティは、何となく分かった気がした。しかし、結局はつかみどころがないということが分かっただけのような気もした。そのなかで、自分の経験に照らして納得できるものがあった。
ロシア人は強者を畏怖し、尊敬する。弱者は馬鹿にされ、軽蔑される、搾取される──まさにそんな経験をしたことがある。
2004年の初冬にハバロフスクを訪れた僕と同行者は、空港からタクシーでホテルへ向かった。うっすらと雪の積もる道を市内へ向かっていくと、警察官にタクシーを止められた。
ロシア人の運転手は、肩をすくめることも表情を変えることもなく車から出ていく。信号無視はしていないし、定員オーバーで走っているわけでもない。咎められることは何もないはずなのだが、警察官はなかなか運転手を解放しない。暖房で窓が曇ったタクシーの車内で、僕らは10分以上も待たされている。
やがて、一か月前にもハバロフスクに来たという同行者が車を降りた。あらかじめ小さく折り畳んでいた何かを、警察官にそっと手渡す。会話も交わされていないこのやり取りで、僕らはようやくホテルへ向かうことを許された。
後部座席に戻ってきた同行者は、前を向いたまま僕に話す。
「前回も警察官にタクシーを止められて、運転手と30分以上も話をしていたんです。何が何だかさっぱりわからなかったですが、『あっ、お金を払わないと動けないんだ』と気づいたんです。10分待って動かないので、今回もそうかなと思いまして」
金額にすれば数千円だと言う。それが高いのか安いのかはともかく、「そのために30分も粘るんですか?」と僕が驚きの声をあげると、同行者は「普通はそう思いますよねえ」と頷いた。
「でも、外に立っているのは同じだから、気にならないんだとか。タクシーの運転手が、グルになっていることもあるそうです。悔しいですけれど、彼らにとって私たち日本人は、搾取できる対象なんでしょう」
ワールドカップの取材では、様々な場面で現地の人たちと交わる。そのときロシア人は、僕や僕の取材仲間にどのように接するのだろう。そのとき僕たちは、どのような思いを抱くのだろう。
楽しみでもあり、ちょっと怖いような滞在は、6月13日からスタートする。
こちらもおススメ!
堂場瞬一『闇の叫び アナザーフェイス9』文春文庫
→シリーズの完結編。あっという間に読めます!
齋藤孝『自分に負けない心をみがく! こども武士道』日本図書センター
→ロシア人のメンタリティを知ったあとに読むと、なおさら日本人の精神性は尊いと思えました!
『プーチンとロシア人』産経新聞出版
木村 汎/著