FBI長官の仕事『より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY』#4 ジェームズ・コミー
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トランプ大統領はなぜ、私をクビにしたのか? 前FBI長官による衝撃の暴露。

ジェームズ・コミー著『より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY』より

2018年4月17日にアメリカで刊行され、1週間で60万部を売り上げた本がある(初版は85万部)。前FBI長官ジェームズ・コミーの著者『A HIGHER LOYALTY(より高き忠誠)』だ。FBI長官の任期は10年である。それは時の大統領の政治的圧力に屈することなく、その捜査方針を貫くためだ。ところが2017年3月、就任したばかりのトランプ大統領に突如解任された。まだ5年以上の任期を残していた。「トランプ陣営のロシアとの癒着に関する捜査妨害」が解任の真の理由として囁かれているが、真偽は定かではない。ブッシュ大統領に司法副長官、オバマ大統領にFBI長官に任命されたコミー氏はなぜ解任されたのか? 邦訳版(藤田美菜子・江戸伸禎訳)の緊急出版にあたり、その衝撃の内容の一部を10回にわたり連載する。

 

 

FBI長官の仕事は、外部の人間が思うよりはるかに幅広い。映画で描かれるように、長官が個々の事件に専念し、じきじきに悪いやつらを捕まえたりはしない。FBI長官は並外れて複雑な組織のCEOなのである。一日の始まりはかなり早い。長官付きの警護班が私を拾って車で職場まで送り届ける。ブッシュ政権で司法副長官を務めていたときも連邦保安官局の警護がついていたが、新しい警護チームは特殊訓練を受けたFBIの特別捜査官で構成されていて、はるかに規模が大きくタフである。FBI長官に向けられる脅威のほうが大きいからだ。

 

司法副長官時代に護衛してくれていた連邦保安補たちもそうだったが、私と家族を守ってくれる特別捜査官たちは、私にとって家族も同然になった。親戚でもなければ許されないような面倒をかけているのだから当然だ。あるとき、パトリスの親類の結婚式でアイオワに滞在したことがあった。私は先に寝ることにして自分の部屋へ引き上げたが、パトリスはわが家の子どもたちとそのいとこを相手に夜遅くまでトランプをしていた。だいたいいつもそうであるように、ホテルの私の部屋にはあらゆる場所に警報機が取りつけられ、私はホテルのどこに行っても捜査官に取り囲まれていた。そしていつものように、捜査官たちは緊急呼び出しボタンの付いた装置を私に渡した。私はこの類いの道具がどうも苦手で、ホテルの部屋ではいつも手の届かないところに置いていたから、夜中にうっかり触ってしまうこともなかった。その夜はリビングルームのカウンターの上に置いて、私は寝室で眠った。装置ははるか遠くにあった。

 

リビングルームのカウンターの上に装置を置いたことはパトリスには伝えていなかったが、深夜2時、妻はちょうどその場所で、私を起こさないように静かに着替えていた。そのときボタンの上に何かを置いてしまったのだろう、5秒後にはドアを叩くドンドンという音がした。パトリスがドアをわずかに開くと、主任捜査官がおかしなアングルで立っているのが目に入った。Tシャツとボクサーショーツといういでたちだ。手にした武器は妻の目に入らないように背中に隠している。ただならぬ表情だ。

 

「異常はありませんか、奥様?」
「ええ、ちょうど寝る用意をしていたところで」
「本当に異常ありませんね?」
「はい」
「長官にお目にかかれますか?」
「別の部屋で寝ています」
「確認してもらっていいですか?」
パトリスは寝室のドアまで歩いていって私の姿を確認すると、戻って報告した。「寝ていました。夫は大丈夫です」
「ありがとうございます、奥様。お邪魔しました」

 

パトリスには見えていなかったが、翌朝聞いたところでは、ドアの両サイドには捜査官が壁沿いにずらりと並び、銃を腰の後ろに隠して待機していたということだった。やはり妻がボタンに触れていたのだ。申し訳ないかぎりである。

 

FBIは強力な銃文化を誇っている。善良な人間の手に銃があることが、FBIの世界観を正しく象徴しているのだ。スタッフミーティングでは出席者の80パーセントが銃を身につけている。ミーティング中に副長官が足を組むときにアンクルホルスター(訳注:足首に銃を収めるためのケース)の拳銃が見えるのにもやがて慣れた。なんといっても、副長官とは上級捜査官がなる役職なので、ホワイトハウスに行くとき以外は常時武器を携行しているものなのだ。私も長官として銃の携行は許可されていたが、そんなことをしても生活を複雑にするだけだろうと思っていた。これについてはボブ・モラーも同じ考えだった。それに、私は武装した捜査官に一日中囲まれているのだ。FBIの手の内にあっても危険だというなら、わが国は正真正銘、危険な状況にあるということだろう。あるとき、「無差別銃撃犯」が職場に侵入してきた場合は、適当な場所に身を隠すか逃げるようにという指示が全職員に宛てて送信された。このメールに対して、私の最初の副長官を務めたショーン・ジョイスは次のようなメールを「全員に返信」したことによってFBIじゅうで有名になった。「そんな指示を真に受けて身を隠した者、アクティブシューターに向かって走っていかなかった者がいれば、誰であってもクビにする」

 

毎朝、車で職場に向かう途中、フル防備された黒のサバーバンの後部座席で書類に目を通し、その日予定されている最初のふたつの会議に備えるのが私の習慣だった。また、どんな会議の前であっても、自分のデスクでさらに多くの書類に目を通さなければならない。まずは司法省から裁判所に提出された、国家安全保障にかかわる事件に関してFBIが収集した傍受データの開示を求める申請書から手をつける。どの申請書も長官本人の承認を必要としているが、長官不在時は副長官が代わりを務めることになる。厚さ2~3センチはあろうかという申請書の束を、書類の山から抜き出して吟味していく。書類の山が30センチほど積み上がることも珍しくはない。申請書の吟味とサインを終えると、機密情報の要約を読み込みにかかる。FBIにはテロを未然に防ぎ、合衆国内での外国の諜報活動を食い止める使命があるが、この使命を遂行するために必要な情報を仕込むのだ。機密ではない情報についても、広範にわたるわれわれの任務と重要な関係のあるものには目を通す。こうして宿題を終えて上級チームと顔を合わせる準備が整うと、まずは6人から10人の最上級スタッフと、最もデリケートな機密事項について議論を交わし、それからFBIのさらに多くのリーダーたちを呼び入れて会議を行う。

 

私は出席者に質問をし、出席者はFBIが扱っている諸問題について定例報告を行う。その内容はFBIの管轄全般におよぶ。人的問題(捜査官の負傷も含む)、予算、テロ対策、防諜活動(訳注:外国政府やテロリストによる諜報活動や破壊活動を無力化すること)、大量破壊兵器、サイバー対策、犯罪事件(誘拐、連続殺人、ギャング、汚職事件など)、人質救出部隊の配置、議会対策、マスコミ対策、法律、訓練、FBI科学捜査研究所、外交問題などなど。たいていはそのあと司法長官と顔を合わせ、最重要事項についてブリーフィングを行うことになっていた。

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より高き忠誠 A HIGHE RLOYALTY

より高き忠誠 A HIGHE RLOYALTY真実と嘘とリーダーシップ

ジェームズ・コミー /藤田美菜子・江戸伸禎 訳

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