ryomiyagi
2020/10/08
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2020/10/08
ワトソン力とは何か。それは、謎に直面すると、そばにいる人間の推理力を飛躍的に高める特殊能力です(残念ながら、自分の推理力は高まりません)。この力の持ち主である本作の主人公(あるいは狂言回し)は、シャーロック・ホームズの相棒、ワトソンがこの力を持っていて、だからホームズはいつもワトソンを捜査に伴っていたのではないかと考え、この力をワトソン力と名付けました。
なぜ、こんな妙な力を作品に登場させたかといえば、一つの事件に対しいくつもの推理が披露される、多重推理の趣向をやりたかったからです。
その場合、名探偵的な人物が初めから決まっているよりは、誰が最後に真相を言い当てるかわからない、混沌とした状況の方が面白い。ですが、登場人物たちが皆、冷静に、論理的に推理をするのは不自然です。そこで考えたのがワトソン力でした。事件現場に主人公とともに居合わせた関係者たちがこの力で推理力を高められ、論理的な推理合戦を繰り広げるというわけです。
そして、警察が捜査に乗り出したら、事件関係者たちの推理合戦ができなくなるので、事件は毎回、クローズドサークルで起きることにしました(一編だけ例外がありますが)。
苦労したのは、単調にならないよう、クローズドサークルにバリエーションをもたせることでした。雪のペンション、真っ暗闇の地下室、嵐の島、飛行機、バスジャックされたバスと、さまざまな場所がクローズドサークルになります。また、一つの事件に対して披露される推理のバリエーション、最後に真相を言い当てる人物のバリエーションにも、工夫を凝らしました。
「推理することは、万人に与えられた権利です」と本作の主人公は言いますが、その言葉通り、多種多様な人物が推理を披露します。ぜひお読みいただければ幸いです。
『ワトソン力』
大山誠一郎
【あらすじ】
目立った手柄もないのに、なぜか警視庁捜査一課に所属する和戸宋志。行く先々で起きる難事件はいつも、居合わせた人びとが真相を解き明かす。それは、そばにいる人間の推理力を向上させる和戸の力のおかげだった。謎解きの楽しみが満載の本格ミステリ短編集!
【PROFILE】
おおやま・せいいちろう
1971年埼玉県生まれ。2004年、『アルファベット・パズラーズ』でデビュー。’13年、『密室蒐集家』で第13回本格ミステリ大賞を受賞。’18年発表の『アリバイ崩し承ります』が話題に。
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