ryomiyagi
2021/04/28
ryomiyagi
2021/04/28
男性小説家には「強面の系譜」がある。
古くは大藪春彦、生島治郎など本格ハードボイルド小説家。彼らは作風自体を体現するかのように、それまでのどちらかといえば弱々しい小説家のイメージから遠く離れた風貌で登場した。それに連なるのは北方謙三、逢坂剛、大沢在昌、佐々木譲などで、現在でも現役最前線にいる。彼らは「顔文一致」と言われ著者近影でも作品の質を保証していた。
真藤順丈もまた「強面の作家」の正当な後継者にあたると思っている。写真ではいつも目深にハットをかぶり、目線の上に必ず陰がかかっている。どこか謎めいていて、デビュー当時のホラーや幻想怪奇小説の雰囲気を醸していたように思う。
だが暴力や混乱に満ちた彼の小説には、極限の状態の中で出てくる弱さと強さ、哀しみと笑い、苦しみと喜び、絶望と希望がいつも描かれていた。
それが一気に花開いたのは2018年に上梓された『宝島』(講談社)だった。戦後復興期の沖縄を舞台に展開された青春小説として大絶賛され、第9回山田風太郎賞、160回直木三十五賞を受賞した。
それから3年。多くのファンが新作を待ち望むなか、真藤順丈作品集として『われらの世紀』が登場した。タイトルそのままに第二次世界大戦後にはじまり、最後は∞(無限大)先の時代まで見据えた短編10作で構成されている。貫かれているのは「ことば」の存在だ。
それぞれの登場人物を短く紹介すると、「恋する影法師」は世界を旅したパントマイマー、「一九三九年の帝国ホテル」は洗脳の演説を断つ最後の侍、「レディ・フォックス」は民族の詩を伝承する者、「笑いの世紀」は死をも恐れぬお笑い芸人、「異文字」はある部族が持つ特殊能力者、「ダンデライオン&タイガーリリー」は繁華街の片隅にある劇場の演者たち、「無謀の騎士」は新人の中年ユーチューバー、「血の潮」は放浪を運命づけられた一族、「終末芸人」はぶっ壊れた相方をもつ漫才師、そして「ブックマン――ありえざる奇書の年代記」は森羅万象の言葉を読むことを運命づけられた人々。
それぞれの作品すべて、終わっていない。続きが読みたい。これから書かれるだろう真藤順丈という作家の高いポテンシャルを感じる。
実は何作か、とても楽しみにしている長編がある。どれも“物語”をまるごと飲み込んだような作品になる予感がしている。前哨戦として『われらの世紀』を楽しんでほしい。
真藤順丈、ますます楽しみな作家である。
『われらの世紀 真藤順丈作品集』
真藤 順丈/著
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