『レオノーラの卵 日高トモキチ小説集』著者新刊エッセイ 日高トモキチ
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BW_machida

2021/05/31

旅の終わりのナンマイダ

 

はじめて見る景色なのに、なんだか旧知のような気がする。ファンタジィのようでもあるが、それにしてはやや通俗的であろう。いつもの道の角を曲がった先に急にあらわれる見覚えのない街。当たり前のように繰り返される非日常のルーチン。

 

ずいぶん昔、フリーになって何年かした頃、学生時代の友人たちと集まった。誰かの結婚式だったろうか。昔のノリでとりとめなく馬鹿話をしていて、ふと

 

「日高はええな、そんなん考えてて仕事になるんやから」
 と真顔で言われたことがある。

 

「え」

 

そうなんだ。他の人はもうそんなん考えてないのか。真っ当に育ったオトナとの温度差、距離感を突きつけられたような、そんな気がした。まあ、ご指摘自体はおっしゃる通りなので仕方がない。そんなような仕事です。

 

あれから何十年か経ったけれど、自分がちゃんと成長した気はしない。相変わらずおおむね四六時中ろくでもないことを考えて過ごしている。ただ、ものごとにはいつか終わりが来るという実感だけは、あの頃よりはるかに強くなった。だったら世界が終わるその日まで、とりとめのない馬鹿話を続けていよう。この世の終わりにおびえるのを止めた、あの賢明なフィリフヨンカに倣って。

 

これらの物語はだから、わりかし適当な日常がぼんやりと、時折はにぎやかに、あっちにぶつかったりこっちにぶつかったりしながら、ゆるやかな坂道を、少しずつ加速度を増して、ひたすらしずかな終焉に向けて転がってゆくような、そんな世界の欠片です。

 

終末までのしばしの間、いささか饒舌なひまつぶしにお付き合い頂ければ。

 

『レオノーラの卵 日高トモキチ小説集』
日高トモキチ/著

 

【あらすじ】
自分の終わりや親しいひとの終わりは、唐突に訪れる。せめてそれまで、魅力的な謎について、考えないか。たとえば……。多彩な創作活動を展開する才人・日高トモキチ。七篇の幻想的な短編小説を収めた、初めてにして極上の珠玉集!

 

日高トモキチ(ひだか・ともきち)
1965年、宮崎県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。漫画・挿画担当の著作多数。文芸書の共著に『里山奇談』など。単独の小説作品集は、本書が初めてである。

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