微生物との共生が人類を救う!地球は「シンバイオティクス」へパラダイムシフト
ピックアップ

BW_machida

2021/09/02

 

1928年9月3日、アレクサンダー・フレミングによりペニシリンが発見された。このアオカビから発見されたペニシリンは、第二次大戦の最中数多の負傷兵を感染症から救い、20世紀で最も偉大な発見として「奇跡の薬」ともてはやされた。その後も、結核治療に使われるストレプマイシンなど、多種多様な抗生物質が発見されている。これら抗生物質のお陰でどれほど多くの命が救われただろう。ペニシリンから始まる抗生物質が、「奇跡の薬」と呼ばれる所以である。

 

20世紀に入ると人類は、それまでの伝統医療から脱却し、ペニシリンなどに代表される抗菌薬を用いた選択毒性に基づく感染症に対する化学療法に舵を切った。以降、感染症は画期的に治癒し、科学療法は画一的な支持を得ることとなる。
そして今、やれ「研究所から」だの「野生動物から」だのと由来さえ定かでないたった一つの病原菌によって、世界は一斉にフリーズした。
『腸と森の「土」を育てる』(光文社新書)の著者は、予防医療や生活習慣病から終末期医療までの診療経験を積む桐村医師。その、分子整合栄養学やバイオロジカル医療・腸内フローラ研究などを踏まえた、最新のヘルスケア・ウェルネス情報には驚くとともに感動すら覚える。

 

今や、たった1種類の病原性ウィルスの影響で、「微生物=敵」という認識が復活し、「微生物は、病気を起こす恐ろしいもの」「殺菌・消毒して、環境から全ての微生物を排除しよう」という考え方が再普及してしまったようです。ありとあらゆるプロダクトが、除菌・抗菌・殺菌を謳っています。日常的に、殺菌成分の入った歯磨き粉を使い、殺菌石鹸を使って手洗いをし、消毒剤を使います。その時、病原性の微生物だけでなく、手や環境を守る多様な常在微生物までも同時に殺していることを、どうか忘れないでください。(中略)
本来の衛生とは、決して「無菌」を目指すものではないはずです。後の時代の未来人は、人類はかつて野蛮なことをしていたものだと、今の習慣を振り返るかもしれません。

 

「潔癖」と、この一言だけで会話が成立する。そんな時代を嘆いている間に、たった一つの未知なるウィルスが出現するや、たちまち世界は恐慌を来たし、人類は一丸となって殺菌・滅菌・抗菌の旗印のもと日夜目に見えない何者かと戦っている。

 

医学では、抗菌物質のことを「アンチバイオティクス」といいます。「アンチ(anti
-)」は、「抗う」「戦う」を意味し、「バイオティクス」は「生物」を意味します。抗生物質は、細菌を殺す薬ですが、これまでは「アンチ」が主流の医学だったのです。(中略)
これは、農業の世界でも同じで、これまで微生物といえば、作物を病気にする「病原体」のことでした。ですから「農薬で殺さなきゃ」という発想になっていたわけです。(中略)
一方で、次世代シーケンサーという解析装置によって、人のゲノム解析だけでなく、微生物のゲノム解析が進んだことで、その考えは一変しました。人の常在微生物の世界が明らかにされてからは、「人と常在微生物は、遺伝情報を交換し合う超生命体」と考えられるようになったのです。
つまり、世界は「シンバイオティクス」を目指すパラダイムにシフトしました。「シン(syn-’sym-)」は、「共に」を意味し、シンフォニー(交響)やシンパシー(共感)などに使われています。「シンバイオティクス」つまり、微生物と共に生きることこそが、真の健康であると考えられるようになったのです。

 

先ごろ公開された映画『シンエヴァンゲリオン』のシンとは、「新」なのか「真」なのか、はたまたどちらもなのかと、考えあぐねた挙句にただぼんやりと納得していたけれど、どちらでもなかった。「シン」とは「共に」を意味し、「シンバイオティクス」とは微生物との共生を提唱する研究であるらしい。
さらに本書によれば、現代人による飽食は、今や全人類の75%のエネルギーを、たった12種類の作物と5種類の動物で得ているという。これでは、この地球上に生息する動植物のアンバランスな状態は留まることなど期待のしようも無い。「食品ロス」などと、お茶を濁している場合ではなかった。
そして著者は、そんな、やっと微生物との共生を模索し始めた人類の体内にこそ、森と等しい循環システムが存在し、その在り様は森林を育む豊かな土壌そのものであると教える。

 

人を含め、消化管を持つ動物にとって、外界とのエネルギー交換に必須の臓器が消化管なので、まず生命維持には、消化管ありき。脳は二の次です。
そして、生態系の連続性は、食を通して保たれているので、食はとても大切な行為なのです。日本人が「いただきます」という時、それは「御命を頂戴いたします」という他の生命への感謝と死への弔いを意味していることはご存じの通りです。
そして、「食べること」は必ず、外界にインパクトを与えますから、巡り巡って、環境問題とせざるを得ないのです。(中略)
現代人の身体と心は、インプット(摂食)を減らし、プロセス(消化・代謝)を休めて回復させ、アウトプット(排泄)を増やす。食べ物や情報の粗食化、ファスティングが身体にも心にも有効なのです。

 

余りにも高度に情報化の進んだ社会は、溢れかえった情報の真贋すら覚束なくなり、一個7000円の桃は、店頭に並ぶこともなく消費されていく。
そんな生活環境の中で、やみくもに「除菌・殺菌」が叫ばれ、人は列を成してワクチン接種を繰り返す。
これが、私たちが子どもの頃に夢見た「来るべき21世紀」の姿である。

 

脳に次いで神経細胞が多い腸は、「第二の脳」とも呼ばれる。確かにまだ人間が、脊椎動物になる以前の神経中枢を思えば、その長大な消化器官こそが中枢であり、すなわち神経中枢=脳だったに違いない。また、幸せホルモンと言われる「セロトニン」のおよそ90%が腸で作られ、ストレスを感じればお腹が痛くなり、腸の不調が、不眠や不安を感じさせるなど、確かに脳と腸は相互に補完し合っているとすら思わせる。
今すぐにでも森に入り、豊かなフィトンチッドに包まれながら自分自身の体内に深い感謝を捧げたくなる。『腸と森の「土」を育てる』は、清々しく考え方や暮らしぶりを改めさせてくれる貴重な開明の書であった。

 

文/森健次

関連記事

この記事の書籍

腸と森の「土」を育てる

腸と森の「土」を育てる微生物が健康にする人と環境

桐村里紗

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

腸と森の「土」を育てる

腸と森の「土」を育てる微生物が健康にする人と環境

桐村里紗