ryomiyagi
2019/12/13
ryomiyagi
2019/12/13
※本稿は、香川勝行・妹尾武治・分部利紘『売れる広告 7つの法則』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
通販での経験則は、そのまま他のビジネスに転用できるものではないと思います。ですが、その背景にある人間の購買における思考パターンはどうでしょうか。課題点を呼びかけることで意識してもらい、そのうえで商品の価値を分かりやすく伝えること、あるいは、対価をしっかりと提示して、何度も反芻する機会を設けてしっかりと検討してもらうこと、こういったことは、きっとすべてのモノを売るという行為において効果を発揮する手法だと私たちは考えます。
モノを買う時に考える順序に沿って整理していくことで導かれるのが、「人間がモノを買う際の体系化された心の流れ」、すなわち「普遍的な購買心理モデル」です。果たしてそれはどんな構造のものなのか。
結論から言うと、そのモデルは大きく5つのステップで構成されるものでした。さっそく、実際の思考の順序に沿って、説明していきましょう。
心の流れの5つのステップ
■第1ステップ:『ニーズに気づく』
鉄板法則(1)で見てきた通り、購買のきっかけは、普段は心の棚の奥にしまってある自分のニーズに目を向けることから始まります。自分のニーズを認識することが、そのニーズを満たすために商品を検討するという、その後の行為につながるのです。したがって、この「ニーズに目を向ける」という段階は、買おうという気持ちを生み出すスタート地点として位置づけることができます。
■第2ステップ:『商品の価値を認識する』
自身のニーズに目を向けた後は、ニーズを満たす「価値ある存在」として、商品を認識してもらうことが欠かせません。そのために有効な手法が、鉄板法則(2)で紹介した小公女型の説明。ニーズを満たすモノが見つからずに困っている人がニーズを満たす商品を手に入れ、満足する、そんな様をつぶさに描くことで、商品の価値がしっかりと認識されます。そうすることで、商品への明確な興味が生まれるのです。
■第3ステップ:『自問自答をする』
続いてのステップは、鉄板法則の順番的には(3)と(4)ということになりますが、心の流れの順序で言うと、3番目は鉄板法則(5)の「答え合わせ」となります。つまり、街頭インタビューなどに触れて、商品に対する考えを「自問自答」しながら、本当に自分のニーズを満たせるモノであるか、欲しいものであるかどうかを吟味するステップです。
第2のステップでニーズを満たすと認識した商品に対して、頭の中で対話しながら納得を固めていく。そうやって「欲しい」気持ちが固まっていくのが、このステップだと言えるでしょう。
ここで注意したいのは、この段階でも決して顧客は能動的ではないという点。よほど欲しいモノでない限り、人は積極的に自問自答の場を作り、商品を検討してくれるわけではありません。
だからこそ必要なのが、無理なく自然に、負荷をかけずに自問自答を行う状態にいざなうこと。ちょっとでも情報が頭に入ってきにくいと自問自答はストップしてしまうため、情報を中学2年生レベルに加工し、集中していなくてもすんなり頭に入ってくるようにすることが大切です。そう考えると、鉄板法則(6)もこのステップの一環として捉えることができるでしょう。
■第4ステップ:『感情や感覚が刺激される』
鉄板法則(7)で触れた通り、人が商品の価値を判断する基準には、「理性」だけでなく「感情」や「感覚」といった非言語的な要素も存在します。このような無意識の部分で商品をポジティブに受け止めるステップも、「欲しい」という意識を固めるうえでは欠かせないものだと言えます。モデル上ではこの要素を第4のステップとして位置づけていますが、実際には、衝動買いのようにこのステップが先に発生する、といったケースも多々あります。
いずれにせよ、この段階まで来ると、おそらく「欲しい」という気持ちはかなり強いものになっているでしょう。
■第5ステップ:『対価を判断する』
商品を「欲しい」と思った人が最後に行うのが、対価が妥当かを判断すること。欲しいと思った気持ちに対して相対的に対価が安ければ、「欲しい」は「買いたい」に変わりますし、逆に高いと思えば「欲しい」は「やっぱりいらない」に変わってしまうのです。そこで大切になるのが、鉄板法則(3)で考察した、対価の提示の仕方。そもそも競争力のある対価を設定することが大前提ではありますが、仮にそうでない場合でも、定価を見せたうえで魅力的な特典を提示するなどの工夫で価格への失望を防ぐことができるのは、前章で見てきた通りです。
■追加要素:『繰り返し』
加えてもう1つ、忘れてはならないのが、鉄板法則(4)で触れた「繰り返し」の役割です。「買う」という決断に至るステップはこれまで見てきた通りなのですが、実際にはこの5つのステップは1回行われただけでは決断に至らないことが多く、それゆえに同じサイクルが3回繰り返されることが重要となります。したがって、「買いたい」という気持ちを完全なものにするためには、ここまで見てきた5つのステップに「×3」を加える視点も不可欠だと言えるでしょう。
「A・I・D・E・A(×3)(アイデアスリー)」
これらのポイントを整理すると、図2のようなモデルとして捉えることができます。
最初が、ニーズに目を向けさせる「Awake(気づき)」。続いて、商品がニーズを満たす存在であると認識する「Identify(認識)」。それから、納得のために商品価値を自問自答する「Discussion(対話)」。さらに、感覚的にも満たされた気分になる「Emotion(感情・感覚)」。そして最後が、対価が妥当かを判断し行動する「Action(行動)」。加えて、それらを3回繰り返すことが必要という意味で、「×3」もここに加えることができます。
私たちは、それぞれの頭文字を取って、このモデルを「A・I・D・E・A(×3)(アイデアスリー)」モデルと名付けることにしました。
この5つのステップを、消費者にしっかりと走り抜けてもらうこと、それがモノを売るために欠かせないやり方だということになります。
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