『おはしさま 連鎖する怪談』著者新刊エッセイ 玉田誠
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BW_machida

2021/10/18

台湾・香港怪談の魁として

 

映画『返校 言葉が消えた日』を観た。2019年の台湾で大ヒットしたダーク・ホラーであるこの作品は、あるもののフーダニットを巡るミステリでもある。本作も怪談であり、仕掛けを凝らしたミステリであるという点で、この映画と相通じるものがあるように感じた。

 

本作はサブタイトルに「連鎖する怪談」とある通り、怪談小説として手に取られる読者が多いかと思う。三津田信三の手になる第一章「おはしさま」の放つおそるべき呪力に導かれるまま、台湾・香港四人の作家が仕上げた各章には、怪異とどう対峙し、ミステリの技巧によってそれをどのような物語に昇華させるかーという点において、各作家の強い個性が見て取れる。特に薛西斯(クセルクセス)「珊瑚の骨」はその語りと仕掛けから訳出に苦労した一編で、実は物語が終わったあとも、はっきりと語られないままの怪異が残されている。だが今回は読者に怪異の正体を探ってもらうべく、敢えて詳しい説明は加えずにそのままとした。なお、本編に登場する道士・海鱗子(ハイリンズ)を主人公としたスピンオフ・コミック『不可知論偵探』(原作・薛西斯、作画・鸚鵡洲)のなかで、くだんの怪異について語られているのだが、この作品についてもまた機会があれば紹介したい。

 

オーソドックスな毒殺事件に見えながら、おそるべき怪異が最後の一撃となって読者を襲う夜透紫「呪網の魚」、様々な語りを交錯させた耽美な筆致によって、幻想と悪夢と現実のあわいに本格ミステリの仕掛けを凝らした瀟湘神(シヤオシヤンシエン)「鰐の夢」。それに続く「魯魚亥豕」は、ありあまる才能にまかせてミステリからホラー、そしてSFと何でもこなす陳浩基の豪腕ぶりに注目したい。軽妙な筆運びで「鰐の夢」の美しき幕引きを一転させ、「おはしさま」の怪談世界はどこに着地したのか。その唖然とするしかない結末は、実際に本作を手に取って確かめていただきたいと思う。

 

『おはしさま 連鎖する怪談』
玉田誠/著

 

【あらすじ】
八十四日後、満願の日。箸(おはしさま)が願いを叶えてくれる。祝いだろうが、呪いだろうがー。
恐怖小説の匠・三津田信三が描いた怪異が、海を超え、伝染し、やがて驚愕の真相に辿り着く。日本・香港・台湾の人気ホラー&ミステリ作家が競演!

 

玉田誠(たまだ・まこと)
1967年、神奈川県生まれ。青山学院大学法学部卒。台湾において日本ミステリの紹介や台湾ミステリの評論を行っている。ほかの訳書に『世界を売った男』『網内人』などがある。

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