『スタートレック』が科学者たちを刺激した!SF映画における2大クエスチョンとは
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ryomiyagi

2021/11/04

 

秋風に肌寒さを感じる今日この頃、ようやくコロナ禍も収まりを見せ、街には元の活気が戻ってきた。果たしてこれが、新型コロナウィルスの終焉なのか、はたまた第5次だか第6次だかの始まりなのか予断は許さないが、それでも市民生活はいったん元に戻ったかのようだ。

 

東京都における一日のコロナ感染者数が100人を切り、非常事態宣言も解除され、街はにわかに賑わってきた。日頃の飲食はもちろんのこと、旅行にレジャーにと人の動きも盛んになってきている。
そんな中、『DUNE/デューン砂の惑星』が10月15日に公開となった。『DUNE/デューン砂の惑星』といえば、通算5作目となるSFの名作。前後2部作の第一弾とあって、早くもマニアの注目を集めている。
そんなSF映画の醍醐味といえば、壮大(もしくは荒唐無稽)なテーマをもとに展開されるダイナミックな物語と映像だが、それにも増して興味を掻き立てるのが、科学的な検証だろう。
かくいう私も、SF大作が公開されるや劇場へと足を運び、まずは大画面で作品を堪能した後、どこが荒唐無稽でどこまでが科学的かと頭を悩ませてみたりする。SF映画隆盛の底辺を支える、とても良質なニワカマニアの一人である。

 

手に取らずにはいられない一冊に巡り合った。『物理学者、SF映画にハマる~「時間」と「宇宙」を巡る考察』(光文社新書)。著者は、理学博士の高水祐一氏。スティーブ・ホーキング博士に師事した経歴も持つ宇宙論の専門家だ。俄然、持論をお伺いしてみたくなる。

 

映画『スター・ウォーズ』では、太陽が2つあるタトゥイーンという惑星が登場します。現在の天文学では、このように太陽が複数ある天体があるという事実は知られていますが、もちろん映画製作の当時は知られていません。つまり、人間の想像力というのは実に壮大で、ときに映画で描かれている世界が現実の科学世界のなかで発見されるようなケースもあるのです。映画だから、フィクションだからといって切り離すものではなく、想像力とはときに侮れないものなのです。映画の世界から何かとんでもない科学的着想がひらめき、未来の科学を導く、そんな夢のようなことだって起こらないとは言い切れません。

 

SFにおける最大のテーマといえば、「宇宙」と「時間旅行」ではないだろうか。
宇宙空間を舞台に繰り広げられる物語は、地球人としての未来を垣間見せてくれるし、同時に、地球外生命体の有無や他の惑星への移住など、広大無辺な宇宙空間はありとあらゆる可能性と不可能性を、観る者に想起させてくれる。
一方タイムトラベルは、これまたSF映画における定番のテーマである。人が自らの人生において、また人類史上においても、事の大小にかかわらず時間にまつわるifが存在する。
「もしもあの時こうしていれば」「どちらを選べばより良かったか」と……。
そんなタイムトラベルの定番中の定番、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、余りにも人気を博したためにPART3まで作られた。幸いにも、PART1の公開に際して劇場に足を運んだ私は、その豊かな娯楽性に検証などは忘れて、一緒に行った友人たちと映画館近くの居酒屋で語り明かしたものだ。

 

量子の世界では、私たちの巨視的な世界とは異なり、時間の概念も位置の概念もガラッと変わり、直観とは相いれない世界が姿を現します。映画『TENET』でもセリフとして登場してきますが、例えば、陽電子という粒子は電子と時間の面で逆の振る舞いをします。つまり、陽電子は未来へ向かう電子とは逆に過去に向かう粒子といえます。(中略)
言いたいことは、時間を戻ることを考えると、量子力学の世界が一番現実的にできる可能性が高いということです。つまり量子状態になれば、ひょっとすると過去へのタイムトラベルが可能ではないかと想像します。

 

もしも過去へ戻れれば……。ともすれば、人生とは「こんなはずじゃなかった」の繰り返しではないかと思います。幾つもの試練を乗り越えて、もっと楽観的に生きることが許されていたとしても、振り返れば「ああすればよかった」「こうすべきだった」と思うことが幾つかあるはず。
そんな都合の良い「if」を見せてくれるのもSF映画の醍醐味だと思います。

 

もう一つの大きなテーマが「宇宙」。
夜空を見上げるたびに、「宇宙はどれほど広いのか」「地球のような星は在るのか」「宇宙人は居るのか」と、皆一様に頭を悩ませるに違いありません。これらの疑問は、「星間飛行の可能性と課題」「地球外生命の可能性」の二つに集約されるように思います。

 

星間移動の方法を科学的に少し考えてみると、これまで登場したワームホールを用いるものとは別に、アルクビエレ・ドライブという理論が提案されています。簡単にいうと、船の前後の時空を歪めて、ビッグバン宇宙の爆発のような時空構造を実現させるというアイデアです。(中略)
このアイデアを提唱したアルクビエレ博士は、この発想を『スタートレック』シリーズで描かれているワープ技術から着想したようです。まさに映画が見せる想像世界を科学に生かした例といえるかもしれません。

 

映画『スタートレック』から発想したワープ技術を、世界中の科学者たちが真剣に考えているとは、なんと素敵なニュースだろうか。
また、このワープ技術らしき航行法が、近年世界各国でベストセラーを記録し、先ごろ日本語版が刊行されたSF小説『三体』にも描かれていたように記憶している。しかし悲しいかな、『三体』では理解が及ばないままに読み進め、後に本書によって始めて腑に落とすことができたというお粗末限りない私でもある。

 

広大無辺な宇宙や、人生最大のくびきである時間をテーマにしたSF映画を、さらに科学的に論評するなど本当に頭の痛い問題だ。と同時に、とても面白い、一夜では語り尽くせないほどに魅力的な作業である。
本書『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)は、そんな楽しいひと時と美酒を提供してくれる、秋の夜長におすすめの一冊である。

 

文/森健次

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