「生き金」と「死に金」の分かれ目とは!?「人を幸せにする浪費」のアイデア満載の一冊
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ryomiyagi

2021/12/24

『妄想浪費』 小山薫堂/著

 

 

お金の貯め方増やし方を書いた本はたくさんあるが、お金をどう使うべきかと迷い続けている人は相変わらず多いはずだ。お金の大切さを骨身にしみてよく知っている大人だからこそ、せっかくなら有意義に使いたい。それが自分だけでなく、誰かの喜びになるとしたら、なお良い。

 

本書は数々の人気テレビ番組やヒット映画の脚本を手掛け、「くまモン」の生みの親でもある著者が、お金を使うことによって誰かの人生を変えたり、誰かを幸せにする方法を語った一冊。しかも見返りは期待しないという、なんとも素敵な浪費のアイデアを伝授してくれる。

 

「欲しいものを欲するがままに買えることは楽しいし、嬉しい。だが、その楽しさや嬉しさは一瞬だ。長続きはしない。」だからこそ「喜びが長続きするような消費を心がけることこそ、幸せなお金の使い方なのだ。」と著者は説く。お金を生き金にするか、死に金にするかは使い方次第というわけだ。

 

それでは幸せなお金の使い方とはどのようなものなのか。たとえばランドローバー社のメディアツアーに参加し、アンデスの山々を旅した日々のことを著者は振りかえる。ガタガタ揺れる土の滑走路をランドローバーで走り抜け、夕方にようやく草原に辿り着く。草原には大きな白いテントが張られ、ダイニングルームが設えてある。冷えたシャンパンに温かい料理。ディナー後には大きな焚き火スペースでシングルモルトがサーブされる。朧月夜のもと、遠くにはここまで案内してくれた馬乗りが駆けていく姿が浮かび上がる。満天の星に美しい演奏。まるで夢物語の一夜。生涯忘れることのない旅の経験だ。

 

浪費は、自分を喜ばすだけでなく学びの機会も与えてくれる。京都の古美術商ではこんな発見があった。かねてから親しくしている店の主人が、あるとき魯山人の織部の壺を見せてくれた。本物かどうか疑いながらも、主人はその壺を18万円で購入したという。決して安くはない。ずっとそばに置き、眺め尽くして至った結論は「これは偽物」。店では売れないと聞いて、著者は自分が購入すると申し出た。すると主人は、この壺には勉強させてもらったからその勉強代を差し引いて7万円で譲ると答えたのだ。ふつうなら偽物だと分かっていても自分が損するような価格では手放したくないもの。それを勉強代といって手放してしまう。学びを身体に刷りこむ姿勢は、まさに生きたお金の使い方そのものだ。

 

「浪費の『浪』は、『波』という意味がある。浪人とか流浪とかいう言葉からも連想されるように、波のように移ろい定まらないという意味だ。であるなら、浪費は波を起こすための費用ではないだろうか。」

 

本書はお金の使い方を説いているがビジネスに特化するのではなく、あくまで「浪費」にこだわった一冊。それも個人が地球や文化ためになにができるかについて考えているからタイトルは「妄想浪費」。こんなふうにお金を使うなら、財布の紐をゆるめるのに気を揉まなくて済みそうだ。

 


『妄想浪費』
小山薫堂/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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