「子ども向けの絵本」と侮るなかれ! 大人も「ため」になる、不思議と発見に満ちた小さくて複雑な世界|フィリップ・バンティング『びっくり! 微生物のひみつ』
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ryomiyagi

2022/05/09

『びっくり! 微生物のひみつ』
フィリップ・バンティング/著 さかいあきふみ/訳

 

 

絵本作家フィリップ・バンティングの描く微生物はカラフルで、ユニークで、かなり「ため」になる。新型コロナウイルスからプランクトンまで、本書にはありとあらゆる微生物が登場するが、どの微生物にも個性があって可愛いのは、さすが絵本作家である。本書は微生物の紹介にはじまり、体の免疫システムについて、健康でいるための方法など微生物にまつわる知識が幅広く説明されており、しかも非常に分かりやすい。

 

私たちの体は何百万という微生物におおわれている。しかし本書によると、生まれたときの状態では、人間の体の中にも表面にも、微生物は全くいないという。「母乳をすって、だんだんと広い世界に出るようになると、微生物の種類も増えていく」のだ。2、3歳になるとそれ以上は増えなくなる。ちなみに、体にいる微生物をすべて集めたら人間の脳とだいたい同じ重さになるらしい。世界中の微生物を集めるとその重さは「世界じゅうの動物を集めたより50倍も重い」そうだ。

 

 

子ども向けの絵本と侮るなかれ。読み進めると、大人でも新しい発見がある。地球には、およそ1兆種類の微生物がいるが「そのうちの99.999%はまだ見つかっていない」とか、微生物は地球でもっとも古い生き物で「化石の中から見つかったバクテリアは、なんと36億年前のもの」であるとか。微生物の集まりを「微生物相」と呼ぶが、人間にはそれぞれ自分だけの微生物相があると本書を読んで初めて知った。微生物によって、気分がコントロールされているかもしれないのだ。

 

バクテリアやウイルスについても詳しい。「映画を1本見てるあいだに、ひとつのバクテリアに128個のひいひいひいひいひ孫」ができること、最近になって約3万年前からシベリアの氷のなかで凍っていたウイルスが発見されたこと。顕微鏡でのぞいた微生物の世界は、まるでべつ世界だ。

 

そもそも風邪ってどうやってひくの? そんな素朴な質問にも本書はていねいに答えてくれる。しかも症状の経過まで詳しくあげられている。ワクチンや抗生剤、集団免疫の仕組みも説明されており、新型コロナウイルスの予防になりそうな知識が満載だ。

 

『びっくり! 微生物のひみつ』
フィリップ・バンティング/著 さかいあきふみ/訳

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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