『一心同体だった』著者新刊エッセイ 山内マリコ
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2022/06/08

わたしたちの三十年

 

銀座のカフェで打ち合わせがあり、少し早く着いて手持ち無沙汰にしていたら、となりの席に座った女性二人組の会話が、聞くともなしに耳に入ってきた。彼女たちはまだ知り合って間もない様子だった。遠慮がちで、言葉づかいも定まらず、敬語とタメ口がまじる。もしかしたらまだお互いの年齢を明かしていないのかもしれない。若いけど、三十代の落ち着きが見て取れる。わたしと同年代だ。

 

二人はあのあと、仲良くなれたのかなぁ。なんだか、運命的な場に居合わせたみたいにドキドキした。あの二人、仲良くなれてたらいいなぁ。

 

最後にああいう出会いがあったのはいつだっけ? わたしは友達が少ないから、それぞれの出会いの場面をけっこうちゃんと憶えている。それと同じくらい、仲良くなりそびれた子のことも憶えている。友達だったけど、親友と呼べるほどではなかった子。一時期は親友だった人とも、ここ数年のあいだに距離ができたりもした。作家になったり、結婚したり、自分のことにかまけて忙しくしているうちに、そうなってしまった。

 

ともかくわたしは二〇一八年二月に銀座のカフェで、友達になりかけている二人の女性を見たときから、このことを小説に書きたいと思うようになった。構成はその場で決まり、メモに書き留めた。はじまりはAちゃんとBちゃんの物語だ。その次は、BちゃんとCちゃんの話が展開する。次はCちゃんとDちゃん……という具合に、小学生から中学生、高校生、大学生、二十代、三十代と追いかけて、その年代ごとの女子の友情を描きたい。友達は流動的だし、その蜜月は恋と同じで短いものだし、人は歳をとるから。いろんな登場人物が、バトンリレーするように友情でつながっていく、ロンド形式の連作短編にしようと思った。

 

書きあぐねているあいだに元号が変わった。自分も四十代になった。そんなわけでこれは、昭和後期に生まれた女性たちの、平成三十年史でもある。

 

『一心同体だった』
山内マリコ/著

 

【あらすじ】
十歳〜四十歳の女同士の友情の濃密さ、繊細さ、そして女子の生き様を描き出した八編の連作短編集。それぞれの年代の女子の友情がロンド形式でつながっていく、わたしたちの平成三十年史。著者デビュー十周年の到達点!

 

やまうち・まりこ
1980年、富山県生まれ。2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『The Young Women’sHandbook〜女の子、どう生きる?〜』など著書多数。

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