『蒼い水の女』著者新刊エッセイ 柴田哲孝
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ryomiyagi

2022/06/28

刑事片倉康孝の迷走

 

私の分身、刑事片倉康孝のシリーズも、この『蒼い水の女』で五作目になる。
前々作の『赤猫』に始まり、前作『野守虫』へと続いた片倉の“乗り鉄”振りも、ここに来てさらに板に付いてきた感がある。

 

今回はその片倉を、“SLかわね路号”が走る静岡県の大井川鐵道の旅へと連れ出してみた。もちろん片倉の生涯の相棒(?)元妻の智子や、部下の柳井淳も一緒だ。

 

二度にわたる片倉の旅は、さらに南アルプスの奥地へ。日本唯一のアプト式鉄道として知られる井川線の沿線へと分け入っていく。ここには蒼い湖水の接岨湖に浮かぶ、「日本一不思議な無人駅」ともいわれる奥大井湖上駅がある。この絵画のように美しい風景の中で、いったいどのような“事件”が起きるのか―。

 

今回の『蒼い水の女』では、シリーズで初めて片倉が捜査本部の“主任”を務める。テーマは題名にもなった一人の謎の女の存在と、その影に翻弄されて迷走する片倉を中心とした捜査班の面々の姿だ。

 

小説の中の“刑事(デカ)”だって、一人の人間だ。けっしてスーパーヒーローでは有り得ない。
その勘や推理などの能力は完璧では有り得ないし、時には周囲の者を頼り、人としての弱みを見せることもある。ミスを犯して“犯人(ホシ)”に出し抜かれることもある。

 

“犯人”だって同じだ。いくら完全犯罪を目論んでも、どこかに穴がある。その穴から、計画は少しずつ綻びていく。ましてその立場や人格は一概に弱く、脆い。

 

そんな“刑事”と“犯人”の、人間臭い駆け引き。さらにそこから生まれる不確実性の出来事を追いながら、誰もが予想し得ない展開を描いてみたかった。

 

はたして刑事片倉康孝は、どこに向かうのか……。
その意外な結末に期待してほしい。

 

『蒼い水の女』
柴田哲孝/著

 

【あらすじ】
石神井公園の池に浮かんだ不可解な水死体。肺から発見場所とは異なる水質の水が検出されたことから、刑事・片倉は事件を“他殺“と推理し、被害者の男がSNSに残した写真を頼りに静岡県の大井川鐵道へ。本格警察小説の醍醐味が詰まった傑作!

 

しばた・てつたか
1957年生まれ。2006年『下山事件 最後の証言』で日本推理作家協会賞と日本冒険小説協会大賞、07年『TENGU』で大藪春彦賞を受賞。著書に『野守虫』『ジミー・ハワードのジッポー』などがある。

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