誰がトランプを支持しているのか?大ベストセラーで読み解く(6)
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トランプ大統領の主要な支持層と言われる、白人貧困層。「ヒルビリー」とも言われる彼らの実態について書かれた本が、アメリカで売れ続けています。その邦訳版の刊行にさきがけ、本文の一部を少しずつ紹介していきます。

 

 

高校3年(11年生)のとき、隣りに住むパティが、屋根から雨漏りがすると大家に電話した。大家が駆けつけると、パティは上半身裸で意識を失ったまま、リビングのソファに横たわっていた。2階ではバスタブから水があふれていて、それが雨漏りの正体だった。パティは風呂にお湯を張っているあいだに鎮痛剤を大量に飲んで、意識を失ったらしい。おかげで、家の2階と家族の持ち物の多くが台なしになった。

 

これが私たちのコミュニティの現実だ。全裸の薬物依存者が、わずかに残されているものさえぶち壊す。そういう母親に、子どもたちがおもちゃや服をめちゃくちゃにされる。

 

たとえば、大きなピンクの家に一人で住んでいる女性がいた。世捨て人のように引きこもっていて、近所では謎の人物として通っていた。タバコを吸うときにしか外に出てこない。誰にも挨拶しないし、家の明かりはいつも消えている。夫とは離婚していて、子どもたちは塀の向こうだ。ぶくぶくに太っていて、子どもだった私は、からだが重すぎて動けないから外に出るのがいやなのだろうと思っていた。

 

通りの先には、まだよちよち歩きの子どもを連れた若い女性が、中年の恋人と一緒に暮らしていた。男は働き、女はひたすらテレビで昼ドラ『ザ・ヤング・アンド・ザ・レストレス』などを観て過ごしていた。小さい息子は愛らしく、その子もうちの祖母が大好きで、時間に関係なく祖母のうちの玄関までやってきては、おやつをせがんだ。深夜過ぎに来たことすらある。その子の母親は、暇をもて余しているというのに、自分の子が他人の家に迷い込んでしまわないように注意することすらできないのだ。その子のおむつを替えてあげなければならないこともあった。

 

なんとかその子を助けてあげたいと思った祖母は、児童相談所に連絡して、その子の母親のことを伝えたが、何もしてもらえなかった。だから祖母は、私の甥のおむつでその子の世話をし、いつも近所に目を配っては、その〝ちっちゃいお友だち〟の姿を探していた。

 

姉の友だちは、小さなメゾネットに、生活保護の女王とでも呼べるような母親と住んでいた。7人きょうだいで、ほとんどは同じ父親の子だった。それは(残念なことに)とてもめずらしいことだった。母親は仕事に就いたことがなく、祖母の言葉を借りるなら「繁殖にしか」関心を示していないようだった。子どもたちには、まっとうな人生を送るチャンスはまったくなかった。娘の一人は虐待男と一緒になって、タバコを買える年齢になる前に、子どもを産んだ。一番上の息子は、高校を卒業してまもなく、ドラッグの過剰摂取で捕まった。

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ヒルビリー・エレジー

ヒルビリー・エレジーアメリカの繁栄から取り残された白人たち

J・D・ヴァンス/著 関根光宏/訳 山田文/訳

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