akane
2019/04/18
akane
2019/04/18
今も昔も、小学校の算数で「元にする量」と「比べられる量」を習います。
そして、元にする量を「1」としたときの比べられる量が0.01のとき、その割合は1%と定められます。
この約束から、350円は1000円の35%、1200円は1000円の120%となります。
この「%」は全世界共通の言葉で、人口、使用言語、予算に占める各種対象、食品の成分、土地の用途別面積、時間配分などの割合や変化といった様々なものを測るときに用いられ、私たちが社会を営むうえで重要な指標です。
しかし、現在、日本では「『%』が分からない大学生」が増えています。
例えば、次の2問を見てください。
問1 2億円は50億円の何%か
問2 (販売個数や売上高などが)2000年に対して2001年は10%成長し、2001年に対して2002年は20%成長したとする。このとき、2000年に対して2002年は何%成長したことになるか。
問1の正解は、2を50で割って、商の0.04を百分率に直して4%となります。最も多い誤答は、50を2で割って25%とする解答です。
問2の正解は、1.1×1.2と計算して、結果の1.32から32%となります。ダントツに多い誤答は、10に20を加えて30%とする解答です。
では、この2問に対して現在の日本の大学生はどれくらい誤った解答をするのでしょうか。
長い間、数学教育に携わってきた桜美林大学リベラルアーツ学群教授の芳沢光雄さんは、このたび、「『%』が分からない大学生」に着目した、題名もそのものズバリ『「%」が分からない大学生』(光文社新書)を上梓しました。
この本では、日本の数学教育が抱える根本的な問題を指摘したうえで、その解決に向けて思い切った提言をしています。
本書によると、先に挙げた「問1」は、現在の日本の大学生の2割前後は間違え、「問2」は、大学生の半分以上が間違えると推測できると述べています。
「%」がどのように導かれるのかを分かっている方々にとって、この2問を間違える人が一定数の割合で存在するということは理解に苦しむかもしれません。
しかし、「%」の問題としてなじみの深い食塩水の問題が2012年の全国学力テストで出されたのですが、1983年に本質的に同一の問題が出題されたとき(ともに中学3年)と比べると、前者は後者より正解率が20%も下がったのです。
では、なぜ、「%」を間違える人が増えてしまったのでしょうか。
そこには、もちろん、国語力の問題もあるでしょう。例えば、「%」に関する次の4つの表現は、同じことを意味しています。
・~~の……に対する割合は〇%
・……に対する~~の割合は〇%
・……の〇%は~~
・~~は……の〇%
こうした表現に対する理解力が落ちていると同時に、マークシート式問題に見られるように、単に「やり方」を覚えて答えを当てるだけの教育・学習が蔓延していることも原因の一つとして挙げられるでしょう。
また、その流れに迎合するかのような学習参考書も多いのですが、来たるAIの時代の教育として、この傾向には首をかしげざるをえません。
なぜなら、これからの時代は計算機と競うような学びではなく、頭を使う学びが求められるからです。
さて、「く・も・わ」という下の図をご存知でしょうか。
これは、「%」の問題で答えを当てるためだけに使われるものです。そして大学生になって「く・も・わ」の図を忘れてしまうと、式を本質的に理解しているわけではないのでデタラメに計算してしまい、前述したような珍解答が生まれてしまうのです。
数学は暗記科目とは違い、一歩ずつ理解して積み上げなくてはならない教科です。
しかし、学年別指導を基本とする現在の日本の教育では、理解の遅い生徒は「やり方」を優先する暗記だけの誤魔化した教育に慣れてしまうのです。
このシステムを、一歩ずつ理解させる教育に移行させなければ、問題の本質は改善されることはないでしょう。
芳沢さんは、「ゆとり教育」を見直すきっかけとなった『分数ができない大学生』(東洋経済新報社)の執筆者の一人で、大学生を含む学生たちが抱えるこうした問題に注意を払ってきました。
また、『論理的に考え、書く力』(光文社新書)では、これからの時代を生きるうえではクリエイティブな能力が必須になることを踏まえ、論理的に考える力、そして書く力の重要性を広く訴えてきました。
このことについて芳沢さんは様々なメディアでいろいろと提言してきたのですが、一方、この「%」の問題に関しては、現在、日本の数学教育が抱えている最も深刻な課題だといえるにもかかわらず、いまだ世間ではその危機が十分に理解されていないと考え、本書を執筆する決断に至ったと本書で述べています。
※以上、『「%」が分からない大学生』(芳沢光雄著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。
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