子どもに「あったかな心」を持たせる育て方 鎌田實先生の新「へこたれない」ヒント 4
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医師として国内外で精力的に活動する著者が出会った、数々の命の輝き――。
現役医師にして人気作家・鎌田實先生の著書『新版 へこたれない』(光文社知恵の森文庫・8月9日刊)より、選りすぐりのエッセイをご紹介します。
読後、きっと暖かな涙があなたの心を洗い流す、カマタ先生の“元気が出る”一冊!

 

 

心のウォーミングアップをしよう

 

子どもを育てる時に大事なことがある。
あったかな心を持った子どもは、どんな時代にも生きぬく力を持てる。
こんな経済が崩壊して大変な時だからこそ、あったかな心が生きる力になるのだ。

 

あったかな心を育てるにはウォーミングアップが大事。肩ならしである。
ぼくらは野球のピッチャーではないので、肩はあっためなくてもいい。
心のウォーミングアップ。心をあっためる授業をしようと思った。

 

「ようこそ先輩」の収録二日目。この日も学校の外へ子どもたちを連れ出した。
学校から歩いて数分のところに、ブース記念病院がある。その緩和ケア病棟。
七十二歳のとび職の、肺がんの末期の患者さんがいた。転移が全身に広がっていた。いよいよという時を迎えていた。江戸っ子で粋いきな人で、人のためにひと肌脱ぐことをいとわない人だった。

 

彼は体の中で起きているすべてのことを聞かされていた。自分の命がギリギリであるということを知っていた。
にもかかわらず、子どもたちに大切な残された時間を貸してくれると言ってくれた。

 

死んでいくことがわかっている人が、どんな思いでいるのか、命の切なさや大切さをわかってもらおうと思った。
前もって彼の考えや言葉を聞きたくて、一般用のビデオカメラで撮らせてもらった。

 

「切迫した命」の中で伝えたいこと

 

いよいよであるということをよく知っている。
死は覚悟している。恐くはない。
まわりは死のことに触れようとしないが、自分には聞いてほしいことがある。

 

そう彼は何度も述べた。やっぱり人間は、聞いてもらいたいんだ。まわりの人に負担をかけてはいけないと、できるだけ明るくふるまってきた。でも亡くなる二~三日前には、どうしても家族に話しておきたいと思っている。

 

「死が来ても驚かない」
彼は淡々と述べる。
「家内に感謝している。自分の子どもたちにもありがとうと伝えたいと思っている。でも、今のうちから言うのはちょっと……」
照れくさそうに笑った。粋な江戸っ子だから、早々にありがとうなんて口がさけても言えないのだろう。

 

「和田小学校の子どもたちに伝えたいことは、生きることの大切さ。生きることは大事なことです。生きたくても生きられない人がいる。つらいことがあっても、嫌なことがあっても、友達に相談して生き続けてください。相談を受けた人は友達の言葉を受け止めてあげてください」

 

子どもたちに、命を大切にしてほしいと繰り返した。
死んでいくのがわかっている男の、子どもたちへのメッセージ。

 

≪続く≫

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新版 へこたれない

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鎌田 實 (かまた みのる)

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