akane
2018/08/28
akane
2018/08/28
子どもを育てる時に大事なことがある。
あったかな心を持った子どもは、どんな時代にも生きぬく力を持てる。
こんな経済が崩壊して大変な時だからこそ、あったかな心が生きる力になるのだ。
あったかな心を育てるにはウォーミングアップが大事。肩ならしである。
ぼくらは野球のピッチャーではないので、肩はあっためなくてもいい。
心のウォーミングアップ。心をあっためる授業をしようと思った。
「ようこそ先輩」の収録二日目。この日も学校の外へ子どもたちを連れ出した。
学校から歩いて数分のところに、ブース記念病院がある。その緩和ケア病棟。
七十二歳のとび職の、肺がんの末期の患者さんがいた。転移が全身に広がっていた。いよいよという時を迎えていた。江戸っ子で粋いきな人で、人のためにひと肌脱ぐことをいとわない人だった。
彼は体の中で起きているすべてのことを聞かされていた。自分の命がギリギリであるということを知っていた。
にもかかわらず、子どもたちに大切な残された時間を貸してくれると言ってくれた。
死んでいくことがわかっている人が、どんな思いでいるのか、命の切なさや大切さをわかってもらおうと思った。
前もって彼の考えや言葉を聞きたくて、一般用のビデオカメラで撮らせてもらった。
いよいよであるということをよく知っている。
死は覚悟している。恐くはない。
まわりは死のことに触れようとしないが、自分には聞いてほしいことがある。
そう彼は何度も述べた。やっぱり人間は、聞いてもらいたいんだ。まわりの人に負担をかけてはいけないと、できるだけ明るくふるまってきた。でも亡くなる二~三日前には、どうしても家族に話しておきたいと思っている。
「死が来ても驚かない」
彼は淡々と述べる。
「家内に感謝している。自分の子どもたちにもありがとうと伝えたいと思っている。でも、今のうちから言うのはちょっと……」
照れくさそうに笑った。粋な江戸っ子だから、早々にありがとうなんて口がさけても言えないのだろう。
「和田小学校の子どもたちに伝えたいことは、生きることの大切さ。生きることは大事なことです。生きたくても生きられない人がいる。つらいことがあっても、嫌なことがあっても、友達に相談して生き続けてください。相談を受けた人は友達の言葉を受け止めてあげてください」
子どもたちに、命を大切にしてほしいと繰り返した。
死んでいくのがわかっている男の、子どもたちへのメッセージ。
≪続く≫
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