「ドン・キホーテ」勝利の秘密は「夜の観光資源」化だった
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『写真:AFLO』

 

2016年に日本政策投資銀行が行った訪日外国人旅行者の意向調査によると、その多くが「ナイトライフ体験」に不満を持っていることが判る。

 

我が国においては「夜の観光資源」に関していえば、実は大都市であっても、ニューヨーク、ロンドン、パリ、アムステルダムなど欧米圏の国際都市はもとより、香港、シンガポール、ソウルなどのアジアの国際都市と比べても、圧倒的に劣っているのが実情だ。特に多言語対応、もしくは言語不要で楽しめるものが極端に少ない。

 

そうしたなか、「夜の観光資源」を活性化する発想で事業を成功させ、成長してきた企業がある。それがディスカウントストア大手のドン・キホーテである。

 

ドン・キホーテは「圧縮陳列」と呼ばれる商品を高く積み上げる独特の商品陳列手法で有名になり、創業以来、その営業を急速に拡大してきた。

 

一方で、ドン・キホーテは数あるディスカウントストアの中でも特に深夜営業にこだわってきた業者としても知られる。ドン・キホーテの事業戦略は昼・夕方・夜・深夜と営業時間帯を4つに区切り、それぞれの時間帯において異なる客層を継続的に取り込むことにある。

 

昼の時間帯には主婦(主夫)層を主たる顧客として取り込み、夕方には学校帰りの高校生や大学生、その後の夜の時間帯には仕事帰りのビジネスマンやOLを取り込む。更に深夜においては、夜間に働いている飲食店などの従業員の仕事帰り需要を取り込むことのできる立地を選定し、同時に異なる各顧客層に訴求する売り場づくりを行っている。

 

1日の営業の中で施設が稼働しない「死に時間」を極力なくし、事業の生産性を上げてゆく。これこそがドン・キホーテの営業の極意だ。

 

ドン・キホーテといえば、近年、特に有名となったのが秋葉原店の8階に開設されたAKB48劇場である。今や国民的アイドルとなったAKB48の生誕の地として知られる劇場であるが、これもまた、自社の保有する施設の営業効率を高めることを狙ったものである。

 

ほぼ毎日、定休日なく開催されるAKB48劇場の公演は、特に稼働が落ちがちな平日夜の集客装置として機能している。

 

AKB48劇場では平日開催の公演の開始は18時30分であり、終演が20時30分前後となる。20時から21時の間というと一般的な小売店ならば閉店準備の始まる時間帯であるが、AKB48劇場を抱える秋葉原店は他店が店仕舞いを始めるこの時間に需要の山がやってくる。

 

さらに、訪日外国人の深夜消費をも積極的に取り込んでいる。前述のとおり、我が国は都市部においてすらも夜の観光資源が不足しており、特に言語障壁のある訪日外国人向けの観光資源が極端に限定されている。ここに目を付けたのが、24時間営業を原則としてきたドン・キホーテであった。

 

ドン・キホーテは国内の大手小売事業者の中では最も早い時期から訪日外国人の取り込みを狙い、店内表示等の多言語化や免税対応に加え、多言語対応のコールセンターを設置するなどの施策を積極的に導入してきた。

 

売り場に関しても訪日外国人が好む日本製の家電製品は勿論のこと、化粧品、ブランド品はもとより、お土産品として好まれる日本特有の菓子類やキャラクターグッズなど、訪日外国人にとって魅力的な売り場づくりを行っている。

 

このような様々な施策を継続的に打ってきたことによって、現在、ドン・キホーテには夜半にさしかかると大型バスに乗って多くの訪日外国人客が店舗に殺到する。外国人向けの夜の観光資源の少ない我が国において、ドン・キホーテは観光客の夜の「死に時間」を埋める数少ない観光資源となっているためだ。

 

ドン・キホーテは、本来は閑散期になりがちな夜の時間帯の収益力を高める事によって、創業以来、驚異の27期連続増収増益という偉業を達成している。そう考えると、「夜の観光資源」を充実させる事がいかに重要かがわかるのだ。

 

 

以上、木曽崇氏の新刊『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』(光文社新書)から引用しました。盛り場での消費や、夜の街歩き・ショッピング、定着したハロウィン、統合型リゾートの導入……。ナイトタイムエコノミーは具体的にどう日本の経済に影響を与えるのか、豊富な実例で検証します。

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「夜遊び」の経済学

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木曽崇(きそ たかし)

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