複雑な体位、巨大な性器…全部理由があります!春画にまつわる素朴な疑問その3
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「春画」と言えば、着物を半分まといながらのアクロバティックなくんずほぐれつ、誇張された巨大な性器…といったものがまず思い浮かびます。春画に特有なこれらの描写、実はそれぞれに深い意味合いがあるのをご存じですか?
『[カラー版]春画四十八手』(知恵の森文庫)の著者で江戸文化にも詳しい車浮代さん(http://kurumaukiyo.com/)が、同書刊行を記念し、より深く鑑賞するために知っておきたい「春画にまつわる素朴な疑問」にお答えします。
奥深い春画の世界、“知ってから見る”とまた違う地平が広がります。

 

 

Q3.春画はどうやって描かれたのですか?

 

こちらは、浮世絵師がモデルを見て写生する場合と、先人が描いた春画の上に和紙を重ねて、敷き写し(トレース)する場合、そして想像で描く場合がございました。

 

写生する場合は、男女の性描写だからと言って、モデルも男女だとは限りません。売れっ子の絵師の元には弟子たちがおりますので、彼らを絡ませてポーズを取らせ、体位をスケッチし、女性の局部は、女郎などに金を払って写させてもらったものを、紙面で合成するという方法でございます。

 

また、一枚の絵を一人の絵師が描いているとも限りません。これは春画だけでなく、表向きに売られていた美人画や役者絵も同じでございます。例えば、背景や着物の柄を弟子や弟弟子に描かせる、という分業制を取っていた絵師も少なくありませんでした。

 

着物の柄は、PRのために呉服屋から新作の反物が届くこともあるので、ひたすら着物の柄を写してストックしておく、というコンテンツ作りを担当する絵師見習いもおりました。

 

次に、敷き写しの場合でございます。当時は著作権などない時代でございますから、真似やパクリはやりたい放題。構図を真似るぐらいは当たり前で、中には人物をそのまま写して、背景や着物の柄だけを変えたものや、多忙の余りでございましょうか、絵師が自分で自分の絵をなぞり、別のシリーズとして売り出した春画も残っております。

 

時代が下るほど、先人の作品が多いこともあって、敷き写しの方が主流になってゆきました。ご覧の図版、歌川国虎作『男女寿賀多おとめのすがた』の一図は、絵師が依頼主に頼まれて、妾の女陰を写している場面が描かれております。

 

「さてさて絵師も難儀なものじゃ。いかに開(ぼぼ)(女陰)の生写(しょううつ)し(スケッチ)を頼まれたとて、こう見ながら描く者は俺より他にはあるめへ。枕草紙(春画本)などに描く開と違って、見て生けどりにしたのは又格別だ」

 

と詞書(ことばがき)(説明文)にありますように、この作品が描かれた幕末頃には、実物を見て描くことは稀だったようでございます。

 

最後に、想像で描く場合でございます。腕に覚えのある絵師は、何かに頼ることなく描けますが、それでも、明らかにデッサンの狂った絵が多数存在するのは、顔の大きさと同じサイズに性器を誇張して描く春画の特性と、できるだけ局部を見せようとする無理なポーズに、人体の構造との辻褄が合わなくなるからでございます。

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