2018/11/07
でんすけのかいぬし イラストレーター
『三つの物語』光文社古典新訳文庫
フローベール/著 谷口亜沙子/訳
私はハッピーエンドでもバッドエンドでもなく、読み終わった後に『何が言いたかったんだろう?』と思ってしまうような話が割と好きだ。
何が好きなのか詳しく説明して?と言われると困ってしまうのだけど、あえて好きなところを言うのなら“読後の余韻”というやつかもしれない。この『三つの物語』も読後の余韻が残る本だ。
カバー裏の紹介文から抜粋すると、本書は、
無学な召使いの人生を描いた「素朴なひと」
血に飢えた狩りの名手ジュリアンの数奇な運命を綴った「聖ジュリアン伝」
ユダヤの王宮で繰り広げられる騒動を描く「へロディアス」
の三本からなる短篇集だが、今回は「素朴なひと」についてお話ししたい。
この話は、小さいころから召使いとしてささやかに生きてきたフェリシテが年を取り、息を引き取るまでを描いた物語。
真面目で、欲がなく、勇敢で、この無垢ともいえるフェリシテの清さは私にはとても魅力的だった。
しかし、ひとつくらい何か与えてやってよ!と思ってしまうほど、恋人・主人の子供たち・甥・鸚鵡のルルなど、フェリシテの大切にしているものは次から次へといなくなってしまう。
ミサには必ず参列するほど信仰深いのに、神様は見てくれていないのかーッ!
私なら陰陽師にも勝てそうなレベルの怨霊になってしまいそうな人生だが、フェリシテは誰も恨まない。
悲しい物語なはずなのに、フェリシテの呼吸が消えていくように、魂が光に吸い込まれていくように、スーッと終わっていくラストは何とも言えない幸福感があった。
読み終わってから鸚鵡の写真を見たり家の近所の教会の前を通るたびに、悲しいことが多かった人生だけど、フェリシテの最期は幸せだったのかしら?と、この物語を思い出す。
先日参加した文学イベントでは、登壇者が『現代では何から何まで急かされて効率よく行動しなければならず、簡単に分かったような気がするものが好まれ、考えることを放棄しているように感じる。本を読み、立ち止まっていつもとは違うリズムを感じることができればいい。』と言っていた。
こんな風に普段の生活で読んだ本のことをぼんやりと思い返すことも“立ち止まって感じる”ということになるのかもしれない。
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『三つの物語』光文社古典新訳文庫
フローベール/著 谷口亜沙子/訳