2019/01/17
戸塚啓 スポーツライター
『こどものための易経』到知出版社
竹村 亞希子/著
都築 佳つ良/著
取材をさせていただいたプロ野球のある監督から、易経に関する本を読んでいると聞いた。
取材対象の方が読んでいるのだから、こちらも読まないわけにはいかない。そもそも、類まれなリーダーとして知られる監督の知識の鉱脈に、少しでも触れてみたいとの興味もある。易経を説く単行本や新書を集めてみた。
これがまあ、とにかく難しい。入門編とされている一冊でも、とんでもなくハードルが高い。電車の移動中にサラッと読めるようなものはなく、ページをめくって戻し、まためくって戻す、という作業を繰り返しても、なかなか内容が頭に入っていかない。
読むだけではダメなら書き出して理解しようとしても、どの本も数ページで躓いている。1冊の本をそのまますべて抜き出さなければいけないぐらいだ。読書が前へ進まずに困っていたところで、すがりついたのが本書だった。
『こどものための易経』というタイトルどおりに、本書は易経の教えを分かりやすい言葉に置き換えて解説している。こどもが抱くに違いない疑問や悩みに答える形で構成されているのだが、「子どもが抱くに違いない疑問や悩み」とは、実は誰にでも当てはまるものが多い。
「好かれる人ってどういう人?」とか「努力しても失敗ばかり」といった疑問や悩みは、学生でも社会人でもぶつかるものだろう。50歳の僕が読んでも、納得できるものばかりだ。分かっているけれど実際の行動に移すことができていないとか、普段の自分を省みて恥ずかしくなるような気づきが、この本には詰まっている。
好きな言葉を見つけることもできた。「積極的になれない……」という疑問の答えとして紹介されている「直・方・大なり。」だ。
直は素直や実直、方は方正、大はあまねく盛大に。大まかに意味を書くとこうなり、本書ではさらに噛み砕いて「教えられたことを素直にきちんと受けとめて、徹底的にしたがおう。きみは大きく成長できるよ」と説明されている。「ひとよりおくれたとしても、徹底的にやることがだいじだよ。そうすれば、大きく成長できるよ」ともあり、「最後までものごとをやりとげるのは、度量のある人だと、『易経』は教えているよ。」と結ぶ。
度量のある人とは、どんなタイプなのか。「心が広くて人や物事を良く受け入れること。消極的に見えて、とても粘り強い根性がある」とのことだ。
本書で紹介されている易経の教えは、どれも参考になる。そのなかでまずは「直・方・大なり。」を心がけ、度量のある人間を目ざしていこう、というのが2019年の僕の目標である。
著者のひとりの竹村亞希子さんは「はじめに」で「時代や環境が変化していくなかでおこる、あらゆるできごとの解決策になる知恵が書いてある」として、易経を「知恵の宝箱」と表現している。
難しいからという理由だけで、宝箱を眺めているだけではもったいない。本棚に並べたままだった易経に関する新書や文庫に、僕はもう一度手を伸ばしている。
『こどものための易経』/到知出版社
竹村 亞希子/著
都築 佳つ良/著