2019/07/31
竹内敦 さわや書店フェザン店 店長
『わたしを空腹にしないほうがいい』BOOKNERD
くどうれいん/著
この人きっと来るから!今まさにキテルから!と激熱でオススメしたいこの本は、一人の若き女性の日々の出来事と、作ったり食べたりなご飯とが切り離せない、普段の喜怒哀楽が「食」に密接に繋がるエッセイ。
彼女のまるで小説のような日常と(小説はいつだって誰かの人生だけど)、そんな引き出しから出すの?とビックリするような表現力と豊かな独特の感受性が光る文章がたまりません。食べるときはマンガみたいな顔したり、失恋をソフトクリームで実感したり、おにぎりの作り方に人生の極意を汲み取ったり、空腹でお腹が「トウキューハンズ」と鳴ったと力説したり、生きることと食べることに忙しい彼女の魅力が炸裂しているさまを読むのがまた楽しい。張り合うわけではありませんが、ちなみにわたしは掃除後に掃除機のスイッチを切ったら「ゴクローゥゥゥ」と鳴るのを掃除機から聞いたことがあります。
もうひとつの魅力は、あ、いまさらですがこれ日記形式になっているのですが、各日記のタイトルがその内容から連想された俳句になっていることです。例えば失恋の罪の意識を綴った日記のタイトルは
「てんと虫よ星背負うほどの罪はなに」
といった具合で、俳句の鑑賞も楽しい一粒で二度おいしい本なのです。わたしは季語に詳しくないので川柳かもしれません。川柳と言えばわたしが昔一瞬だけバズった文庫川柳というものがありまして、何冊かの文庫本のタイトルを組み合わせて五七五にするんですがちょっと一つ作ってみました。
「店長がいっぱい初恋春や春」
「店長がいっぱい蒸発秘事炎上」
「店長がいっぱい火星に住むつもりかい?」
光文社文庫だけで作ってみました。いや、内容が全く関係なくてすみません…。
◆くどうれいんとは何者か?
くどうれいんなんて知らない、こんな本見たことない、という人が多いでしょう。無理もないです。素人といえば素人、盛岡在住の地方に暮らすいちOL。だけど、ただの素人でもないのです。歌人なのです。高校時代から才能溢れる表現力で短歌界で頭角を現し、その世界ではそれなりに活躍しています。
NHKやWOWOWの番組にも出演したし、彼女の短編小説も収録した短編集「ショートショートの宝箱」(光文社文庫)も出ているし。なんと!盛岡市渋民生まれという歌人石川啄木と同郷であり、歌才もあるとなれば、すわ啄木の転生か?との説もありますが、まあ、肯定はしません。しかし玲音(れいん)という本名といい、何かの星の下に生まれるべくして生まれたとしか思えないほどです。
本書は俳句のウエブマガジン「スピカ」で連載したものを一度自費出版し、それを盛岡の個性派書店BOOKNERDさんが文庫サイズのいわゆるリトルプレスにしたら、全国の小粋な個性派書店でヒットし(もちろん当店でもベストセラー)、目にとめた編集者さんたちから大袈裟に言うと引く手あまたで現在雑誌POPEYEやウエブでの連載を抱え(注)、いずれ書籍化して作家デビュー内定な若き才媛の書なわけです。今はBOOKNERDさんのサイトから買うか、そこに載っている取り扱い店からしか買えませんが、苦労してでも買う価値ありと保証します。これからの「くどうれいん」のワクワクするようなシンデレラストーリーの目撃者になりませんか?
注
くどうれいん「うたうおばけ」
https://note.mu/kankanbou_e/m/m332e3bb4947d
くどうれいん「盛岡ずずず」
「盛岡という星で」内連載
https://www.instagram.com/planet_morioka/
くどうれいん「銀河鉄道通勤OL」
ポパイ連載
https://magazineworld.jp/popeye/
『わたしを空腹にしないほうがいい』BOOKNERD
くどうれいん/著