人間が走る姿は、なぜこれほど美しいのか?

三砂慶明 「読書室」主宰

『決戦前のランニングノート』文藝春秋
大迫傑/著

 

マラソンを見るのが好きで、メジャー大会があると、休みをとります。
2時間と少し、テレビの前で画面に釘付けになって応援しています。
マラソンを見る度にいつも、人間が走る姿は、なぜこれほど美しいのか、と考えさせられます。

 

大迫傑選手が、7月29日にTwitter
「8月8日のマラソンを現役選手としてのラストレースにします。」
と現役引退を発表しました。その翌日、東京オリンピックを集大成のラストランにするための五ヶ月間の軌跡が、『大迫傑 決戦前のランニングノート』として出版されました。

 

世界中を旅しながら、家族の時間を削り、快適な生活を捨て、自分自身を追い込み、ストイックに毎日、強くなるために走りつづけた大迫選手が、この五ヶ月間をどう過ごしてきたのか。走っているときに何を考えたのか。日々の小さな発見や、いらだち、うまくいかなったことや、競技以外のこと、走ることへの思いを率直に綴っています。3月26日の日誌には、六年前の11月に撮影した子どもと一緒に遊んでいる写真とともに、

 

「マラソン・スポーツは目標を達成することに大きな喜びと価値があります。そしてそれと同じくらい、それ以上にプロセスに価値があると信じています。
この写真を見て、東京オリンピック開催の有無にかかわらず、自分に恥ずかしくない努力をしよう、僕は僕の決めたゴールに向けて走り抜けようと誓った今日でした」

 

とその背景を語っています。
意外だったのは、競技よりも競技外の悩みや雑念が競技者としての成長につながっているという吐露です。

 

「世間の人たちは、365日24時間、ひたすら競技のことを考えていればいいんじゃないのと思うかもしれない。もちろん僕にもそういう時間があったからこそ、そうじゃなくても練習に集中できることを学んだ。いろんな雑念があるなかで、自分の芯に戻れるという強さがあったほうが競技でも伸びるかなと思う。
そして、そのほうが競技者としても人としても深みが増す気がする。」

 

8月8日、一つの時代が終わった。
しかし、このランニングノートが教えてくれるのは、終わりは始まりであり、次なる挑戦者へのバトンなのだということです。

 


『決戦前のランニングノート』文藝春秋
大迫傑/著

この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

「読書室」主宰

1982年、兵庫県生まれ。本と人とをつなぐ「読書室」主宰。 大学卒業後、株式会社工作社などを経てカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社。梅田 蔦屋書店の立ち上げから参加。これまでの主な仕事に同書店での選書企画「読書の学校」やNHK文化センター京都教室の読書講座などがある。著書に読書エッセイ『千年の読書 人生を変える本との出会い』(誠文堂新光社)がある。写真:濱崎崇

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