ryomiyagi
2019/12/30
ryomiyagi
2019/12/30
結弦の試合に帯同するようになってからというもの、僕はより一層、自分の施術というものを究めてみたいと考えるようになったのです。
専属トレーナーとして、たった3カ月ばかりの活動でしたが、結弦に引っぱられるようにして五輪という大舞台を体感できました。その経験を、今度は患者さんの痛みをとることに使えないかと考えたのです。
もともとスポーツ選手を診ることの面白さはありました。
患者さんに「痛みがとれました」と言われたら、「よしよし」と僕も満足することができます。ところが、スポーツ選手やアスリートを目指している子たちは要求が違います。もっと高い所に求めるものがあるんです。
たとえば、仙台弁では「イズイ」という言葉を使います。「しっくりこない」「どこかひっかかりがある」「スムーズじゃない」という意味ですが、スポーツ選手は痛みをとるだけでは満足せず「まだイズイんだけど」と言ってきたり、“イズイ顔”で帰っていったりするのです。
開業してから2年後、ある患者さんから、
「しばらくぶりに来たけど、先生の治療、まったく変わっていないね」
と言われたことがあります。
はじめは「俺の施術がそんなに変わるわけねえじゃん」と思ったんですが、その患者さんは帰りがけに、ものすごく寂しい顔をしていたんですよね。
当時の僕の施術は、低周波療法、マッサージ、伸縮テープ、湿布やテーピング。これのどこがおかしいんだと……。
それからは、タイ古式マッサージがいいと聞けば、タイに行って調べてみる。アーユルヴェーダがいいと聞けば、すぐに専門家に習いに行く。
痛みをとる施術の世界にのめり込んでいくうちに、スパイラルテープがいいという情報と出合います。
さらには、痛みの原因は、血液やリンパ液、内分泌液などの生体の流れの停滞であり、それを押し棒で施術していくという遠絡療法についても耳に入ってきます。
「患部には触れずに棒を使って痛みをとる……。なんじゃそれ?」という状態。そのスペシャリストのクリニックの門を叩くこともありました。
どんどん東洋医学の奥深さにはまっていったことがあります。
「痛みをとる」を習熟したい――。
結弦に引っぱられて世界の舞台を体験したことで、再びムクムクと僕の探究心が湧いてきたんです。
一部のマスコミから「怪しげな整体師」「チャクラの仙人」などと呼ばれもしました。「羽生選手は洗脳されている」と噂されることもありました。でも、まったく気にしません。たしかに僕は変なおじさんです。それでいいんです。
そんなことよりも、痛みを抱える患者をなんとかしたい。結弦を支えていたいという強い思いが根底にあるからです。
スポーツ選手だけでなく、患者さんや、体作りをするすべての人にとっての「イズイ」を解決する。それが、新たな僕の目標となりました。
以上、『強く美しく鍛える30のメソッド』(光文社)から一部抜粋しました。
菊地晃(きくち・あきら)
1956年宮城県生まれ。’90年、「寺岡接骨院きくち」を開業。さまざまな不調や怪我を抱える数多くのアスリートや患者を診てきた。接骨院での施術の傍ら、毎週日曜に体幹トレーニング教室を開催し、多くの小中学生を指導している。2020年東京パラリンピックに向け、パラアスリートのサポートも行う。
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