akane
2019/12/20
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2019/12/20
僕は接骨院を営みながら、20年以上前から毎週日曜日の夜、小・中学生向けの「体幹トレーニング教室」をしています。近くの体育館を借り切って、サッカー、野球、陸上、テニスなどさまざまな競技をしている子どもたちに指導します。
その活動を始めたのは、うちの接骨院に通院する小・中学生のなかに、ポテンシャルが高いのに思うような成果が出せずに、さらに無理なトレーニングをして、ケガをしてしまった子どもたちが多く通っていたからです。
当時、子どもたちが当たり前に行っていた基礎トレーニングは、腕立て伏せや腹筋、ダッシュの繰り返し、スクワットなどが主流。感覚器系のトレーニングは行われておらず、パフォーマンスアップとはかけ離れた、気合いと根性、体力強化だけのトレーニングだったのです。
僕がトレーニング指導を始めた当時は、すべての競技で小さいときから高度な技術や基礎体力を指導する英才教育が必要であると言われていました。
しかし、僕にしてみれば、決して高度な指導をしていると感じることができませんでした。地域の指導者には、時間的な問題や経済的な理由で、そこまで行う余裕がなかったのかもしれません。
レベルの高い選手を育てるためには、小学生のときには、高度な基礎を積ませること。つまり、体幹の強化、バランスと応用力のある筋肉作りなどの、感覚的にも強化されるトレーニングが必要です。
僕が「体幹トレーニング教室」で教えているのは、わかりやすく言うとその「体幹の強化」と、バランスを含んだ「コーディネーションの強化」です。
たとえば、もも上げ──。これを子どもたちにやらせると、太ももの筋肉だけを使います。そうすると、太ももの筋肉だけが発達し、足腰のバランスは悪化します。
もも上げをする際に、足の指で地面を掴むようにして、太ももを持ち上げる。そんな指導をすることで、足腰全体を使って効率的に、もも上げができます。また、太ももだけが太くならないのです。
その教室に、結弦が通うようになったのは、彼が小学校2、3年生、僕が47歳の頃でした。
そして、平日の練習が終わった結弦がうちの接骨院に来るのは、いつも夜でした。
僕は毎日診療時間を延長して、遅くまで接骨院を開けて、結弦が来るのを待っていました。
体育館で体を動かす結弦は、施術室でボソボソと話す子とは別人でした。
とにかく体の動きが、普通の子とまったく違うのです。姿勢がよくて、すべての動きのなかに、流れがあるというか……。
それまで接してきた子どもたちとは、動作が異なっていたことが印象に残っています。
たとえば結弦の走り。
子どもは速く走ろうとすると、姿形はどうでもよくて脚をドタドタさせて駆けていきます。ところが、結弦はリズミカルで軽やかに走るのです。
そうかといって走るのが遅いわけではありません。走る姿勢には、柔らかさと美しさを感じさせ、どこか人を惹きつける。
「面白いヤツだな」と目に焼き付けられました。
出会った頃は、ただの接骨院のオヤジと近所の小学生の関係だった僕と結弦。
それが、「先生、国際大会についてきて」と言われるようになり、「羽生結弦の専属トレーナー」として、結弦のコンディションを最高の状態に仕上げるため、ふたりで試行錯誤を重ねました。
世界を相手に闘う結弦と共にして辿り着いた、心と体の鍛え方。
これはフィギュア選手だけでなく、さまざまな競技で頑張っている小学生や中学生、さらには指導者、ストレス社会で生きるビジネスパーソンなど、すべての方に参考にしていただけるのではないかと考えるようになったのです。
以上、『強く美しく鍛える30のメソッド』(光文社)から一部抜粋しました。
菊地晃(きくち・あきら)
1956年宮城県生まれ。’90年、「寺岡接骨院きくち」を開業。さまざまな不調や怪我を抱える数多くのアスリートや患者を診てきた。接骨院での施術の傍ら、毎週日曜に体幹トレーニング教室を開催し、多くの小中学生を指導している。2020年東京パラリンピックに向け、パラアスリートのサポートも行う。
『強く美しく鍛える30のメソッド』
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