2021/10/05
竹内敦 さわや書店フェザン店 店長
『火星に住むつもりです』光文社
村木風海/著
大変だ。これ以上二酸化炭素を出さない対策だけでは地球温暖化は止められないらしい。減らすだけでもひいこら言っているのに、いったいどういうことか。
具体的な数値から導き出される未来予想図は10年後にガソリン使用禁止、30年後に電気使用禁止なんて可能性もあると。生半可な対策では手遅れということをきくと、いやもうそこまでなのかという驚きと急にわき上がる危機感で背筋が凍る。
そもそも地球温暖化は何年も前から言われている。異常気象の原因と聞く。人間のせいだという。グレタさんのような激しい活動家もいる。地球は寒冷化と温暖化を繰り返しているだけだという説もきく。SDGsという取り組みが盛んだ。企業が利益をこえて頑張ろうとしている。それは効果のない単なるイメージ戦略という人もいる。
さまざまな情報にさらされながら、正しい方向への対策は為政者がするだろうなとぼんやり思いながらエアコンもとくに我慢せず日常を過ごしている。本当のところどうなっているのか、その真実は存在するはずで、それに近づくには科学しかない。
著者はもう手遅れと言うわりには文章からは余裕が感じられる。それもそのはず、大胆に解決する研究をしているからだ。空気中の二酸化炭素を除去する。さらには二酸化炭素からエネルギーを作り出すと。さらには大気の9割以上が二酸化炭素の火星で暮らせる技術だと。伊坂幸太郎の小説『火星に住むつもりかい?』をもじる理由はそこにある。
「ひやっしー」という二酸化炭素を除去する機械が家庭用にまで実用化されているなんて知らなかった。二酸化炭素からエネルギーを作り出す「そらりん」は着々と実験が進んでいるとも。完全に実用化すれば地球を救う技術になるのではないか。その進捗状況が世界中のトップニュースにならないのが不思議だ。陰謀論的な疑いが頭をかすめるが、知られていないだけならば本書を広める意義は高い。
後世からみたら今は歴史の転換点なのかもしれない。人類が滅びかける絶望のさなかに愚かな私たちは何もしなかったと見られるかもしれない。グレタさんのような活動家が先駆的な英雄とされているかもしれない。そして著者の技術が人類を危機から救ったと火星の学校で教えているかもしれない。本書を読んで壮大な明るい未来を感じてみてほしい。
『火星に住むつもりです』光文社
村木風海/著