スクールシャドーを入れるのは難しい
岡嶋裕史『大学教授、発達障害の子を育てる』

ryomiyagi

2020/02/06

 

学校の先生というのは、難物である。
自分もそうだから、自戒を込めて書くのだけれど、みんな一国一城の主のつもりでいる。

 

主と言っても、偉そうにしているというよりは(そのほうがまだマシなのだが)、「自分のやり方は何か変じゃないのかな」、「これ、他の先生に見られたら笑われるのでは」などと、けっこうびくびくしているのだ。

 

だから、授業評価アンケートなどのしくみの評判や実施率はあまり良くない。それが、長期的には自分を利するものだと頭では理解していても、他の人の視線や評価に怯えるのである。

 

なぜこんな話をしているかと言えば、スクールシャドーを入れるのが難しいからである。

 

幼稚園や学校で、発達障害の子はいろいろトラブルに直面する。先生の話を聞かないとか、工作の時間なのに園庭を駆け巡ってるとか、鳩が3羽くるまでおべんとうをひろげないとか、大から小までショールームのようにトラブルがある。

 

特別支援級や特別支援校であれば少人数体制でがっちりサポートしてくれるけれども、障害の程度がそれほどでもない子は普通級や通級に通うことになる。これを先生に見てもらうのは大変だ。
先生は教室運営で手一杯で、障害がある子の個別サポートをする余裕はない。そもそも、そんなことは必要でないのを前提としてS/T比が設定され、人数を決めているのだから当然だ。

 

でも、現実問題として、比較的軽めの子はそこしか居場所がないのである。先生に期待するのも酷、しかし放っておかれるのも学びにならないとなると、助けの手が欲しい。そこで、専門のかたにお願いして補助的に教室に入ってもらうのがスクールシャドーである。

 

お子さんの性質や特性にもよるけれど、これは劇的に効く。
スクールシャドーは、その子がおかれた状況を構造化して環境を整えたり(机が散らかってると気が散って先生の話に集中できないから片付けるとか、その程度のことだが。言葉をかえれば、その程度のことで状況が改善するということでもある)、先生の話に注意を向けるきっかけを与えたりといった、もろもろのことを行う。

 

一つ一つは大したことがなさそうに思えても、それを網羅的に、適切なタイミングで行うのは高度な職人芸と言えるもので、絶妙な場面とタイミングで子どもの行動に介入できると大きな効果がある。

 

なので、入れられるものなら入れた方がいいのは、障害のある子の視点で見れば間違いない。しかし、ことはそうすんなりとは運ばない。他の子たちにとってはスクールシャドーは異物であるし、何より先生にとってそうなのだ。

 

先生は一国一城の主である。異物を嫌う。まして、自分が手を焼いていた子が、スクールシャドーの力で授業に適応できたりすると、自分の職掌を脅かされた気分にもなるだろう(もちろん、多くの先生は寛容だが、そういう人もいるということである)。ここで先生批判をしたいわけではない。クラスに見学の人などがいて授業がやりにくいなあと思うことは、ぼくもままあるのだ。

 

だから、スクールシャドーをお願いするときは、焦らないほうがいい。効果のほどを一度目の当たりにしてしまうと、「あんなに授業に集中できるようになるなんて! ぜひスクールシャドーに入ってもらおう!」なんて気持ちになるのだが、学校側が諸手を挙げて歓迎するかどうかはわからないぞ、という気構えはしておいたほうが良いだろう。

 

「先生だって楽になるはずなんだから、断られる理由がない」などと思っていると、先に述べたような繊細微妙な心の動きを刺激してしまうことがある。ぼくもそれで、幼稚園の先生にひどく嫌われてしまったことがあるのだ。先生の特性はよくわかっているつもりだったので、かなり慎重に話を切り出したのだけれども、まだまだ修行が足りなかったのだ。

 

発達障害に関する読者の皆さんのご質問に岡嶋先生がお答えします。
下記よりお送りください。

 

大学の先生、発達障害の子を育てる

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』(以上、光文社新書)など著書多数。
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