家づくりは予期せぬ事態の連続。浅川家のお風呂場に見る、こだわりを伝える方法とは
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

9月に日本を襲った台風15号。千葉県をはじめ関東地方に甚大な被害をもたらしました。その影響は、浅川あやさんの家づくりにも及んだのです。住まいに重大な被害を受けた方々が多く、頼んでいた職人さんが修繕に向かうことになり、急ピッチで進んでいた完成間近の浅川邸の工事もスローダウン。

 

「仕方がありません。我が家は建設中でまだ住んではいませんから暮らしに困ることはないですからね。こうした非常事態では、延期はやむを得ないです」

 

 

あやさんは、何ごとに於いても冷静であろうとする人です。感情的になっている姿を見たことはほぼありません。それは、この家づくりについて執筆する私に、余計な不安を抱かせないための配慮でもあると思います。しかし、そこに甘えては本当のことが伝えられない。ここまで、少ないとは言えなかったアクシデントの数々。愚痴になるような感情の波を細かく伝えようとはしなかったあやさんですが、それでも、その都度強く感じたであろうストレスや苛立ちは想像に難くありません。

 

家づくりというものづくりを、出来る限り自由に、自分たちの力で成し遂げたいと挑む浅川夫婦の記録として始まったこの連載。これまで、予測していなかったアクシデントや失敗については多く触れてきませんでした。ポジティブな事柄を優先して書いてきたのは、あやさんの大らかな人柄を知ってもらう為と、何かにチャレンジすることの楽しさを主軸として伝えたい、との思惑がありました。けれど、チャレンジには困難はつきものです。そのことも伝えなければ、本当に大事なことが埋もれてしまうかもしれません。そうした気づきと反省から、今後数回の記事では、今までの経緯のなかにあったネガティブな側面に敢えて重きを置きお伝えしようと思います。

 

楽くん、大工さんの仕事をお手伝い

 

前置きが長くなりましたが、今回はお風呂場についてのアレコレ。

 

「お風呂場は予算のこともあり、お金をできるだけかけずに作ることにしたんです。だけどユニットバス形式はどうしても嫌で、湯船も含めてすべてFRPでオーダーメイドしてもらうことにしました。ところが、ここでも擦った揉んだがあったんですよ(笑)・・・。」

 

FRPとは繊維強化プラスチックのことで、ガラス繊維など各種繊維と組み合わせることで強度を高めたプラスチック素材。自動車や飛行機などに使われているほか、ユニットバスや浄化槽など住宅設備にも使用されています。軽量で強度がありますが、取り扱いには難しさがあるようです。

 

「FRPを選んだのは掃除がラクというのがポイントでした。例えばタイルだと目地やコーキング部分からカビが発生しやすいですが、それを軽減できるメリットがあります。しかし、今回担当してくれた職人さんはFRPでお風呂場をつくるのは初めてのことでした。私たちもそうですから、手探りでやることに。最初に出来た状態は、触れてみると床も壁もチクチクしていてまったくダメでした。ガラス繊維が含まれているため、仕上げに手間と技術が必要なんです。偶然、友人宅でもFRPでお風呂場をつくっていたので、現場監督と一緒に見学に行きました。そちらは施工経験のある職人さんの仕事で、その綺麗な仕上がりのイメージを共有してもらい、現在補修を行っています」

 

仕上げが上手くいかず、凸凹してしまったお風呂場の壁表面
完成したお風呂場の様子

 

実際の完成品を見たり、ネットの動画などでも施工に関する知識を仕入れたりもしたあやさん。何も知らないまま口出しすることはしません。

 

「何ごとも、一緒にものづくりを進める場合、言葉だけでは伝わらないことも多々あるので、イメージや情報の共有がとても大事になるんですよね。私たちの理想を形にする家ですが、他者との共同作業でしか作れない。やり取りをしながら進めることの難しさと、面白さと、両方を感じています」

 

次回は、他者との関わりのなかで知った施工に関する注意点や、この業界でのありがちな落とし穴について踏み込んでみます。

 

この廊下は本と音楽のコーナーになる予定。
日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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