akane
2019/08/27
akane
2019/08/27
私は、県予選の勝ち方と甲子園本大会の勝ち方は違うと見ている。
例えば、大阪代表が大阪桐蔭か履正社である場合と、それ以外の場合のどちらが甲子園で勝ち抜く期待値は高いだろうか?ほとんどの人が前者と答えるだろう。
しかし、都道府県の代表になるためには、厳しい暑さや過密日程の中で勝ち抜かなければなく、その過程で下剋上が起きたり、強豪校が足元を掬われたりすることもある。逆に、勢いづいてそのまま代表校に上り詰める学校もある。
ただ、県予選が終了してから甲子園本大会が開幕するまでの1~2週間の時間で、こうした勢いはリセットされると思っている。そのため、勢いで代表になったものの甲子園では序盤にあっけなく敗退してしまうチームがしばしば出てくるのだろう。一方、甲子園「本大会で」勝ち慣れている学校は、予選で苦戦していても甲子園の舞台ではベストパフォーマンスに近い状態で、難なく勝ち上がる。このあたり、県予選と甲子園本大会は連続したものではなく、かなり違ったものだと言える。
近年、高校球児のレベルは急速に上がっている。
私が甲子園大会を見始めた2000年代は投手が140km後半~150kmを投げられたら高卒ドラフト1位のレベルでエース確定だったが、近年は140km台を投げられる投手が複数枚いることが、勝ち抜くチームには当たり前の光景になりつつある。
2010年代の夏の大会優勝校だけで見ると、2010年の興南高校、2011年の日大三高、2016年の作新学院以外は、複数枚の投手を活かして優勝している。さらに、2012年の大阪桐蔭や2015年の東海大相模は「Wエース」と言ってもいいぐらいの実力を持ち、後にプロ入りした2人の投手をそろえていた。
しかし、その複数枚投手を用意できる裏側ではエースに頼りがちな学校もある。
例えば、昨年準優勝した金足農業の吉田輝星投手は大会通算で881球を投げた。これは甲子園大会歴代2位となる球数だ。
その一例もあったせいか、今年は岩手県予選決勝で注目の佐々木朗希選手が登板しなかった。これには野球界で様々な議論が起きた。そして、甲子園本大会ではその影響を感じさせるかのように、勝ち上がっていく学校でもエースには依存せず、球数の多い先発投手は次の試合、投げたとしてもリリーフでという形が数多く見受けられた。
また、今後は高校野球全体が先発投手を複数人そろえることが当たり前になり、ゆくゆくは力のある投手を3人揃えてローテーション化するケースもあると考えている。
例えば、昨年夏の甲子園本大会で優勝した大阪桐蔭は1回戦の先発が柿木投手、2回戦が根尾投手、3回戦が横川投手、準々決勝が根尾投手、準決勝と決勝が柿木投手といったローテーションに近い起用法だった。
そのスタイルで圧倒的な強さを誇り優勝を飾ったのを見ると、なおさらそう思えてしまった。さらに、毎年強打の印象が強い智辯和歌山も今年は池田投手、小林投手、矢田投手といったレベルの高い投手が3人いて、試合ごとに違う投手が先発登板していた。
投手の複数人化によって公立高校と私立高校の格差が叫ばれる中、今年は春に習志野が準優勝、明石商が4強に入り、夏も明石商が4強入りした。ただ、最後に力尽きてしまい優勝まで至らないのは、良くも悪くも何か突出した部分がなく、強豪私立高校に比べて物量でも劣るからだろう。大舞台の「あと一歩」という終盤を乗り越えるには馬力が必要である。結局はそのあたりが2010年以降の高校野球における公立校の限界に繋がっている。
公立高校が覇権をとるには課題もあるが、年々選手のレベルも高くなっているので、これからの選手達がこうした考えを覆してくれるのではないかという期待や楽しみもある。
余談だが、「球数」や「過密日程」などは最近常に高校野球の課題としてあげられており、年々と投手の球速も上がっていることを考えると、選手寿命を考慮した上で「球速制限」をする指導者も増えてくるのではと見ている。
SNSの使用も近年は緩和されつつあるようなので、そこから知識を得る監督や選手も増えていくだろう。
私自身も、お股ニキさんやraniさんやunknownさんなどのいわゆる「お股クラスタ」の方々の知見を、Twitterを通して学んできた。選手がSNSの使用を禁じられているチームでも、監督や指導者がSNS上やネットに載っている有益な情報やフォーム等の動画をミーティングで伝えれば良いのではないかと思っている。
おそらく禁止するのは選手たちの不適切な投稿などによる不祥事への対策だろうが、チーム力を上げるためには、長時間に渡る独自の精神論を話し続ける昔のやり方よりも効率的なのは明らかだ。
SNS配信等のツールを駆使したコンテンツが大きくなったことにより、多くの情報が出てきているからこそ、正しいものを見極める力が必要である。情報の取捨選択を通じて自ら考える力も身につき、監督、指導者、選手各個人の底上げにも繋がるだろう。
今年の夏は昨年と違いずば抜けている学校はなく、戦力や力の差が均等に分かれていると感じた。抽選結果もバランスよく散らばっており、4強まで進出した学校はくじ運が良かったわけではなく、本当に実力があっての上位進出だったと見ている。また、大阪府代表は2017年から3年連続で春夏どちらかは優勝という、安定したレベルの高さを示した。
そして、今年も満員御礼になる日があり、高校野球の人気は例年同様非常に高かかった。アマチュア野球ながらも文化や伝統がこれだけある、トップクラスにおける高校野球はこれからも大切にしていくべきだろう。
「古き良き時代のもの」として残すべきものは残していきながら時代に適応し、今後はさらにドラマ性ある試合を歴史とともに作り上げていってほしい。
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