akane
2019/08/22
akane
2019/08/22
今年春の初戦と同じカードとなった夏決勝では、履正社の打力がホンモノだということを星稜の奥川恭伸投手相手でも見せられたのではないだろうか。
奥川は大会を通じて多くのイニングを投げているため、ベストコンディションではなかったが、それにしてもなかなか空振りを奪えずに捉えられる場面が随所に見受けられた。
特に3回の甘くなった緩い変化球をバックスクリーンに放り込んだ履正社の井上広大選手は、この大会を通じて良い場面で打点をあげており、U-18代表としてもその姿を見てみたいなと思えた。
星稜も7回に追いつき意地を見せたが、それを上回る形で疲れが見えていた奥川を8回に攻めたて、勝ち越して追加点をあげた履正社打線はさすがだった。
大会を通じて井上を中心にチーム全体として高い打力を発揮した履正社だが、やはり春のリベンジの思いは強かったのだろう。奥川相手に17三振という屈辱的な敗退が夏に向けての成長に繋がり、結果的にはその奥川を攻略しての初優勝という、この上ない令和最初の夏になったのではないだろうか。
とはいえ、今年の夏の甲子園の「主役」と言えるのはやはり、星稜高校の奥川投手だろう。
大会前から非常に高い注目を集めていた中、私は奥川投手にも弱点があると思っていた。
それは、春のセンバツでも露呈していた、カウントを追い込んだ後の力みや連投の弱さである。この弱点を突かれて、春は準優勝した習志野に敗退した。
だが今大会では試合を追うごとに奥川とチーム全体が伴奏していくように、飛躍的に成長したと思えた。
特に象徴的なのが、智辯和歌山戦である。試合を通じて奥川投手のものすごい底力や馬力を感じたが、打線もこの試合のサヨナラ本塁打以降は大会当初よりも全体的に「振れている」印象だった。奥川投手が良い投球をしているからこそ、打線も「奥川のために援護点を」という執念が増し、それが試合を追うごとに伝わってきた。決勝まで進んでだのはそういった力があったからだと思える。
また、私からすると、奥川は智辯和歌山戦以外の旭川大戦、リリーフで登板した立命館宇治戦、中京学院大中京戦では100%の力を出していないようにも見えた。センバツの反省を生かし、追い込んだ後の無駄な力みがなくなり、連投や次の試合も見据えたクレバーな投球をしていた。
具体的には、初戦の球数を見ると興味深い。
(履正社と旭川大では打力が違うとは思うが、)春初戦の履正社戦では17奪三振で130球を投げたのが、夏初戦の旭川大戦では、1-0というロースコアゲームの中、奪三振も9個に「抑え」、94球という通称「マダックス」を達成する投球だった。
(「マダックス」……100級以内の完投。お股本P42「パーフェクトではなくグッドを目指せ」参照)
このように、春に比べて夏は試合や大会全体を通じて、暑さによる負担なども考慮し、自己管理をした投球を展開しているように感じた。
センバツで敗退した際にお股ニキさんがコラムで仰っていたように、その実力や資質からして、さらに上のランクにいくのならば、環境や相手の策にハマるのではなく「圧倒的な投球」で実力を上回り、勝ち上がるだけの投手になれるかが、この夏に向けての課題ではあった。奥川投手は高校野球としての範囲内で、この課題もクリアしたのではないかと思えた。
また、この大舞台で「圧倒的な投球」を披露し、メディアや観客を魅了し、大会の主人公となれたのも事実だ。
個人的には、日本の「野球」というコンテンツの中でプロ野球と競り合うぐらい大きなマーケットや影響力を持つ高校野球では、アマチュア野球だとしてもこのような取り上げ方をされることは非常に重要だと思う。
メジャーリーグで活躍しているダルビッシュ有投手、田中将大投手、大谷翔平選手はもちろんのこと、現在パ・リーグ最多セーブの松井裕樹投手や首位打者の森友哉選手(両選手ともに8/21時点)などはこの甲子園で脚光を浴び、高校時代から高い人気を集めてスター街道を駆け上った(当然、私自身も釘付けになった)。奥川もまた、彼らに続く権利を得たと言える。
ただ、あえて課題をあげると、智辯和歌山戦以降は投げるボール自体に強度が感じられなかった点もあるので、高いパフォーマンスを持続することや、まだまだ変化球が緩い部分があるのでそのあたりの改善も求められる。それによって、さらに良い投手になるだろう。
奥川投手には、これから開催されるU-18はもちろんのこと、今後の野球界を担っていくレベルの選手になってほしい。
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