ryomiyagi
2020/06/09
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2020/06/09
現在の坂本勇人の実績は、歴代で見ても攻守ともにトップクラスの遊撃手と言っていいほどである。巨人のレギュラーとしてはもちろんのこと、2大会連続出場したWBCなど国際大会でも日本代表の遊撃手を長い期間担っている。
守備面では若手の頃から一歩目のスタートや判断はよく守備範囲は広くファンプレーが多かったが、安定感に欠けておりイージーミスが多く、捕球やスローイングの確実性が課題であった。
4年目の2010年シーズンには30本塁打以上を放つなど華々しい打撃成績を早くから残す一方、守備の失策数では2008~2011年までセリーグ最多だった。 そのため、多くの野球ファンからはイメージや先入観で「守備があまり上手くない遊撃手」と思われていたのではないだろうか。
2012年のシーズン前の自主トレで坂本は、当時東京ヤクルトスワローズに在籍していた宮本慎也に弟子入りをした。この自主トレで、坂本は確実性のある送球や正しい捕球の体勢や正確なスローイングなど、守備を基礎から学び直していった。
さらに、2014年にはこれまた球界屈指の守備の名手である井端弘和が中日から巨人に移籍し、守備に対するスローイングの間の作り方などを助言された。名手のプレーを間近で見たりアドバイスをもらったりして坂本の守備のレベルは着実に向上していく。入団当初から光っていた広い守備範囲に加え、2014年あたりからは堅実な捕球や正確なスローイングも自分のモノにして守備面も大きく飛躍。攻守ともに球界を代表する遊撃手へと成長した。
たとえば、一般的に守備の確実性の高さとして参考と見られるデータである守備率も2015年は.982でセリーグ1位。2017年は失策数がキャリア初の一桁になり.987でまたもセリーグ1位に輝いた。プレーを実際に見てももちろんのことだが、データの観点からも、若手の頃に比べて捕球や送球の確実性がつき、成熟したことがわかる。
こうして坂本は2015年のプレミア12で最優秀守備選手を受賞し、2016年,2017年と昨シーズンを含めて3度のゴールデングラブ賞を獲得するに至った。
キャリア14年目を迎える坂本は2000本安打も間近の通算1884本安打に到達しており、昨シーズンは40本塁打をはじめ打点や長打率もキャリアハイを更新。2番打者ながらも「パワーフォルム型」として、歴代の遊撃手の中でもトップクラスの活躍を見せた。
打撃スタイルを考察すると、2016年〜2018年はオールラウンダーやバランサーのようなタイプであった中、昨シーズンはさらに自らの引き出しの手札を増やすような形で「バレル」(参照:『セイバーメトリクスの落とし穴』第4章 バッティング論■フライボール革命とバレルゾーン)を開幕からシーズン終盤まで再現性を高めた形で、パワーフォルム型のスタイルで長打を積極的に狙っていった。その結果、シーズン終盤まで本塁打王争いをするまでになった。
キャリア通して初となる2年連続の3割到達はもちろんだが、セリーグ新記録となる開幕戦からの36試合連続出塁や球界史上初の遊撃手としての3割40本塁打達成。2016年にセリーグで初の遊撃手としての首位打者を獲得した時よりもさらに箔がつき、歴史に名を残したのではないだろうか。
年齢的に中堅と言えるキャリアであった2013年〜2015年あたりのパフォーマンスは素晴らしいものであったが、ベテランに差し掛かる近年は守備の動きが全盛期に比べると落ちてきているのが見て取れる。昨シーズンはゴールデングラブ賞を獲得したが、衰えは隠せない。この先、国内を代表する遊撃手としてパフォーマンスがどう変わっていくか気になるところだ。
過去に遊撃手として活躍した選手も30歳を越えたあたりからセンターラインとしてシーズンを戦い抜くにはパフォーマンスが落ち始め、三塁手にコンバートするのも珍しくはない。
遊撃手は野球選手としては花形でありエリート路線のポジションであるが、シーズン通して守備の負担が大きく、身体的に怪我に強く攻守や心技体すべてにおいて優れた選手が起用される場合が多い。 また、二塁手同様センターラインにいるため打球に対する広い守備範囲も必要だし、深い場所から送球する肩も求められる。
そうした負担を考えると、個人的にはプロキャリアを通じて遊撃手を守り続けるのはかなり厳しいことである、と見ている。 過去の選手の例を見てもわかるが、坂本も早ければ来年や再来年のキャンプからは一塁手、三塁手、外野手へのコンバートの可能性もあり得ると言えるだろう。
高卒2年目の2008年から一軍にデビューし、2009年には初の3割到達、2010年は30本塁打達成という華々しい若手の時代を築いてきた坂本。
だが、統一球ながらリーグトップの得点圏打率を記録した2011年、最多安打を達成した2012年を最後に、2013年〜2015年は打撃面で燻っていた期間があった。
この期間は上述したように守備面の上達が著しかったが、反面、本来の才能を潜めるかのような打撃成績で首脳陣や巨人ファンはかなり悩ましかったと思われる。
その坂本に転機が訪れたのは、おそらく2015年に開催されたプレミア12だろう。
この大会中に、ヤクルトの山田哲人や横浜(現:タンパベイ・レイズ)の筒香嘉智にアドバイスを積極的にもらっていた。それもあってか打撃スタイルに幅が広がり、2016年からはリーグのみならず球界でもトップクラスの打撃成績を残すようになったと思われる。
また、昨シーズンも打率3割達成したことによって長年の懸念材料としていた、数年連続ではなく単年でしか3割を達成していない打撃の不安定さも解消されただろう。
昨シーズンは2番打者としてプレーしたが、この打順における資質も、プレミア12で日本代表として2番打者を経験したことが大きかっただろう。 パワーフォルム型はもちろんのこと、2016,2018年のシーズンや2017年WBCで見せたようなオールラウンダーやバランサー型の打撃スタイルもあわせもち、ランナーを置いた場面や試合展開によっては意図的に右打ちなどをしたりして臨機応変に対応できる選手にもなった。
今後の課題としては、苦手の夏場を乗り越えていくことと、打撃スタイルの変化からの確立があげられる。若手の頃から夏を不得意としており、毎年のように打撃の調子が下降する傾向が見られるためである。
顕著だったのが、2013年だ。規定打席到達時点で打率.303を記録していたが、最終的な打率は.265にまで下がった。2017年も7月は打率.352と調子が良かったものの、8月は打率.221と急下降し、9,10月も打率.208となり3割を切る形となった。坂本自身が夏場に弱いことと、コンディションの低下によって下半身に粘りがなくなることが原因だろう。
国際大会などによる疲労もある中でそれを改善していくには、昨シーズンのように5月6月ぐらいの段階で疲労等を含め、コンディションを考慮した上で休ませていくことが不可欠だ。
ただ、疲労から来る調子やコンディションの低下を持ち直すことに関しては、昨シーズンやプレミア12において克服しつつある姿が随所に見られた。
シーズン中では疲労によって交流戦では低調だったが、交流戦明けまでの移動日期間に調子を持ち直した。また、その後のCS~日本シリーズやプレミア12の大会序盤でも疲労から不調に陥ったが、大会中の移動日や控えに回る試合などを生かし、終盤のメキシコ戦や韓国戦では本来の打撃を見せることができた。
そういった意味で、昨シーズンの坂本はコンディション維持の面でも一皮剥けたのではないだろうか。今後も調子やコンディションをうまく持ち直していくことで、よりよい選手であり続けることができるだろう。
その他の面では、脚力が衰え始めたので打撃重視のプレースタイルに変えて、それを確立していくことも重要だ。年齢的な衰えもあるが近年は怪我や故障も増えてきており、一つ具体的な例を挙げると盗塁数は2017年を最後に一桁にまで落ち着き始めている。
このような状態から、今後も遊撃手としてキャリアを積むことはなかなか難しいと思われる。仮に一塁手、三塁手、外野手などにコンバートをされるならば、チーム内で任せられる立ち位置にもよるが、昨シーズンのように「バレル」の再現性を高めて長打力のある打撃スタイルを確立させていくのがベターではないだろうか。
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