8月のあの日、両親と食べた、2つの味のパスタ【親ごはん第16回】
枝元なほみの親ごはん

八月の気持ちはすっかり夏休みだ。子供の頃の記憶。それも小学生くらいの。朝早く起きてラジオ体操に行く。帰ってきてごろごろして、気がつくとお昼ご飯。そうめんとかなにか麺類を食べてお昼寝して3時にはスイカなんか食べて、夕ご飯食べて花火。ご飯やおやつを食べたに違いないから、思い出そうとするとなんだか食べてばかりいたような、で、お昼寝したり、ダラダラしたり。その前後に何をしていたかは思い出せない。でもただぼんやりと休みをただ満喫していた、そんな普通の日々っていったいどのくらいあったんだろう。たいしたこともせずに、まあ明日も休みだし、って思いながら過ごした八月の、平和な時代の子供の、私の記憶。

 

すっかり大人の今、八月になると思い出すのは私の家にやってきた日の、まだしっかりしていた頃の両親のこと。

 

その頃は私も弟も家を出て、両親二人で「山の家」に住んでいた。

 

山を見ながら暮らしたい、と父が言い出したのは私が中学生の頃。横浜の実家とは別に、丹沢に向かう山の中に開かれた住宅地に家を建て、週末はそこに出かける暮らしを始めた。それに伴って父は車の免許を取り、両親ともにリタイアした後は弟が結婚したのを機に実家は弟家族が住み、両親はその「山の家」に居を移した。小田急線の本厚木駅からバスで20分ほど行った先にある山の中腹にできた住宅地の一番上。

 

見晴らしはいいけれど車以外で到達するには大変なところだった。父が運転する車だけが頼りの暮らしでどこに行くのも二人セット、父は「俺はお母さんの運転手だよ」と冗談めかして言っていた。それでもその二人の暮らしを何十年と続けて、それはそれできっといい時間だったんだろうと今になってみれば思うのだ。ただ私も弟もその頃は自分たちの生活で手一杯。必然、私がその山の家へ行くよりも、両親が私と弟を訪ねるほうが多くなっていた。

 

2007~8年のことだろうか。8月15日だった。午前中にやってきた両親は、キッチンに向かい合うソファに座って二人でテレビを見ていた。私はそんな親を横目で見ながら、昼ごはんの支度をしていた。ふと気がつくと、ちょうど12時。敗戦の日の式典を見ていた二人は、立ち上がって、そのテレビに向かって頭を垂れて黙祷していたのだった。私に声をかけるでもなく、ただ二人並んで頭を垂れ、静かに下げたままの手のひらを合わせていた。

 

なんだか心がしんとした。

 

戦争を知る戦中派と呼ばれる年代の父は、飛行機の整備をする少年兵として何人もの特攻隊を見送った、と言って酔っては時々泣いた。生まれて子供時代、思春期、戦後の青年期、高度成長期の頃に働き盛りのサラリーマンとして過ごした父の一生。父としてしか見てこなかった私の知らない一人の男の人がそこにいた。母も、母のことも、母として以外の人生をあまり想像したことがなかったことにふと気づかされた。年老いた両親が、これまでの人生を過ごした時の厚みとその記憶を抱えて黙祷している。死んでいった人たちのことを思う、八月。夏。

 

そのあとは、私が用意したスパゲティを普段通りの様子で3人で食べた。父はにんにくを使った塩味のスパゲティが好き、母はケチャップが好きだからナポリタンが好きなの、と言う。多めにゆでて半分づつに分け、2種類のパスタにして簡単なレタスのサラダといっしょに食べた。麺好きの父は、「こういうものは、つい食べこんじゃうんだ」と言った。「食べこんじゃう」という言い方をはじめて聞いた私は、そう言った父の声や言い方を今もおぼえている。テレビは、普段通りの騒がしいコマーシャルのある番組に変わっていた、蝉が鳴いていた。

 

「2種のパスタ ボンゴレとナポリタン」

■4人分
スパゲティ       300~400g
塩           大さじ1と1/2

<ボンゴレ>
殻つきあさり      300g

〈A〉
 にんにく(みじん切り)1片
 白ワイン       大さじ3
 オリーブオイル    大さじ2

パセリ(粗みじん切り) 大さじ2
好みで昆布茶      小さじ1弱
塩、こしょう 各少々

<ナポリタン>
玉ねぎ         1/2個
ベーコン        70g
トマト         1個
ピーマン        3個
にんにく(みじん切り) 1/2かけ
オリーブオイル     大さじ2
トマトケチャップ    大さじ3~4
バター         10g
塩、こしょう      各少々
バジル、
パルミジャーノ・レッジャーノ 各適宜

 

 

【1】
具を用意する。
〈ボンゴレ〉
塩水(塩大さじ1+水800ml)をはったボウルにあさりを入れて殻と殻をこすり合わせるようにしてすすぎ、水けをきる。耐熱ボウルに入れてAを加え、ふんわりとラップをかけて600Wの電子レンジで約6分、あさりの口が開くまで加熱する。

 

 

<ナポリタン>
玉ねぎはくし形切りにし、ベーコンは細切りにする。トマトは約2cm角に切り、ピーマンは半分に切って種を除き、細切りにする。フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて中火で熱し、香りが立ってきたら玉ねぎ、ベーコンを加えて炒める。トマトを加えて煮詰めながら炒め、ピーマンを加える。ピーマンが艶やかになったらトマトケチャップを加えて混ぜ、火を止めておく。

 

 

【2】
鍋に約2L湯を沸かして塩を加え、袋の表示時間より30秒短くパスタをゆでる。

【3】
〈ボンゴレ〉
1のあさりのボウルに2の半量、パセリを加えて混ぜ、好みで昆布茶を加えて和える。塩、こしょうで味をととのえる。

〈ナポリタン〉
1のフライパンに2の残りを加えて炒め合わせ、バターを加えてさっと混ぜる。塩、こしょうで味をととのえる。器に盛り、好みでバジルをちぎって散らし、パルミジャーノ・レッジャーノをすりおろしてかける。

 

 

枝元なほみの親ごはん

料理家 枝元なほみ

撮影/キッチンミノル
取材・文/高田真莉絵
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