akane
2019/02/14
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2019/02/14
僕がこしらについて書いた「週刊モーニング」の記事が出たから、というだけでもないだろうが、その翌月(2009年12月)あたりから「こしらの集い」の集客が増え始めた。2010年には「前方が畳敷き、後方が椅子席」という見慣れたお江戸日本橋亭の風景が出現、それなりに座席が埋まるようになっていく。
2009年に僕の中で飛躍的に「追っかけ度」が増したのが春風亭一之輔なら、2010年は立川こしらだった。毎月の「こしらの集い」は僕にとってマストな会となり、その期待が裏切られることはなかった。毎回そのバカバカしさで爆笑させてくれる「こしらの集い」にハマった僕の周囲の落語ファンの間で「こしらの面白さは衝撃的だ」と熱く語られるようになったのは2010年の春から夏にかけての時期だったと記憶している。
集英社文庫版『この落語家を聴け!』(2010年10月発売)の「文庫版のためのあとがき」では一之輔に続いてこしらに言及、4ページにわたる「こしら論」を展開した。そこで僕が主張したのは、三遊亭白鳥が「白鳥落語の演者として上手い」ように、こしらは古典落語の常識から見れば基本ができていないにせよ、「こしら落語の演者」としては上手いのだ、ということだった。
その「こしら落語としての面白さ」にハマるかどうかは人それぞれだが、少なくともそれを支持したのは僕だけではなかった。
落語界の将来を担う「スーパー二ツ目」一之輔と、永遠に賛否が分かれる「異端の爆笑派」こしら。僕が追いかけているこの2人を組み合わせた落語会「こしら・一之輔 ほぼ月刊ニッポンの話芸」が世田谷区の成城ホールで始まったのは2011年7月のこと。仕掛け人は、北沢タウンホールや成城ホールの運営を行なっていたアクティオ株式会社エリア統括(当時)の野際恒寿さんだ。
それ以前から野際さんとは「月刊談笑」という会を一緒にやっていた。アクティオが運営するホールで積極的に落語会を開催して成功を収めていた野際さんは、2008年のアスペクト版『この落語家を聴け!』や、続いて出版された僕の落語家インタビュー集『この落語家に訊け!』(2010年1月アスペクト刊)を読んで「落語の見方が同じ」と共感してくれたと言い、僕が演目を指定してインタビューも行なう立川談笑独演会の企画を持ちかけてきた。それが2010年7月に北沢タウンホールでスタートした「月刊談笑」だ。(2012年6月まで毎月開催、後に不定期の「別冊談笑」となった)
2011年、僕と同じく「こしらの破壊的な面白さ」に注目した野際さんが「一之輔とこしらの二人会」というアイディアを語ったとき、僕はもちろん大いにエキサイトしたが、何しろ当時の一之輔は飛ぶ鳥を落とす勢いの「スーパー二ツ目」、実現するのは難しいのではないかと思った。こしらは落語会の空気を乱す「共演者泣かせ」の演者という側面があり、僕が一之輔だったら正直やりたくないのではないか、と。
だがそれは実現した。前半こしら、後半が一之輔、最後に僕を交えてのトークという構成で、こしらの演目は僕が指定。キャリアではこしらの後輩である一之輔をトリに固定したのは、「一之輔でビシッと締めたい」という単純な発想でもあったが、落語家としての「格」は既に真打同様の一之輔がトリを取るのが当然だと、野際さんも僕も考えていたからだった。
そして実際、この会が始まって程なく一之輔の「2012年3月真打昇進」が発表されることになる。それを受けて「ほぼ月刊」としての「こしら・一之輔」は2012年3月をもってひとまず終了、以降は半年に一度の開催となっていく。
ただ、意外なことに2011年7月の時点では、こしらのほうがむしろ一之輔より真打に近い位置にあるように見えた。志らく一門ではこの年の5月から「こしら、志らら、志ら乃、らく朝」という4人の二ツ目が参加する「真打トライアル」が開催されており、6回目となる10月31日に、志らくから真打昇進のお墨付きが最優秀者に与えられることになっていたからだ。
もっともこのトライアルは、数年前から真打昇進を望みながら決め手に欠けていた三番弟子の志ら乃を「真打にしてやる」ために志らくが始めたのだろう、と僕は思っていた。志ら乃は2005年度のNHK新人演芸大賞の落語部門で大賞を受賞したこともあり、志らくが大いに買っていた「正攻法の演者」である。一方、こしらは志らくが重視する「師匠との価値観の共有」という点での評価が極めて低く、志らくの基準で真打を決めるのであれば、こしらはまだ真打にはなれそうもなかった。
ところがこのトライアル、「観客の投票も点数に反映する」というシステムにしたことで、俄然「まさか、こしらが真打に!?」という展開になっていったのだった。
(この項続く)
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