実は落語以外の要素が多かったーー「大銀座落語祭2007」【第18回】著:広瀬和生
広瀬和生『21世紀落語史』

21世紀早々、落語界を大激震が襲う。
当代随一の人気を誇る、古今亭志ん朝の早すぎる死だ(2001年10月)。
志ん朝の死は、落語界の先行きに暗い影を落としたはずだった。しかし、落語界はそこから奇跡的に巻き返す。様々な人々の尽力により「落語ブーム」という言葉がたびたびメディアに躍るようになった。本連載は、平成が終わりを告げようとする今、激動の21世紀の落語界を振り返る試みである。

 

5日間開催となった「大銀座落語祭2007」のプログラム、主なところを記しておこう。

 

中央会館の「究極の東西寄席」はA(12夜)「ザ・ニュースペーパー」「ざこば・南光・雀々」「志の輔」、B(13夜)「稲川淳二」「コロッケ」「小朝」、C(14昼)「たい平・風間杜夫」「正蔵」「木久蔵・ケーシー高峰」、D(14夜)「昇太」「春團治・圓蔵」「文珍」、E(15昼)「桃太郎・白鳥・喬太郎」「清水アキラ」「三枝」、F(15夜)「好楽・夢之助・楽太郎」「圓楽」「歌丸」、G(16昼)「小沢昭一・加藤武」「米朝」「小三治」、H(16夜)「小枝・松村邦洋」「小遊三・花緑」「鶴瓶」。

 

博品館劇場は13日「新作二人会(仁智他)/この人この噺(談春他)」、14日「談笑/志らく」「爆笑新作らくご会(遊方、福笑、たま他)」、15日「東西特選会(松喬、権太楼、可朝他)」「馬生一門会/鹿芝居」、16日「三木助追善公演/柳昇は生きている」「時代劇コント/時代劇裏話(高橋英樹他)/侍らくご」等。

 

時事通信ホールは14日「イョ、待ってましたの会(ぜん馬他)/遊びの世界(小満ん他)」「上方おもしろ寄席(八方、仁福他).芸能人らくご大会(渡辺正行、松尾貴史他)」、15日「イョ、待ってましたの会2(志ん輔他)/おもいっきり珍品集(談四楼他)」「松本清張vs山田洋次(ブラック他)/この人この噺(喜多八他)」、16日「一番弟子の会(志ん五、鳳楽他)/喬太郎におまかせ!の会」「ナンチャンの落語会/志ん朝トリビュート(文太、かい枝他)」。

 

コマツアミュゼは13日「三枝トリビュート(はん治他)/珍品堂(新治他)」、14日「芸術祭特集(金馬、染丸他)」「この人この噺(鶴瓶他)/SF怪奇噺集(春之輔他)」、15日「圓歌一門会」「SF怪奇噺集(小さん他)」「実の親子の競演リレー落語(圓窓、福團治他)」、16日「園菊一門会/柳家のお家芸」「普通じゃない落語会(小米、米平他)/上方らくごの四季(呂鶴、小米朝他)」。

 

JUJIYAホールは12日「枝雀一門若手会」、13日「浪花節だよ人生は」、14日「らくごカルチャー1/この人で聴きたい(文楽、助六他)」「吉朝一門会」、15日「らくごカルチャー2/珍品集(平治他)」、15&16日「小佐田定雄の世界1・2」、16日「らくごカルチャー3/この人で聴きたい(龍志、圓橘他」等。

 

その他、浜離宮朝日ホールでは「怪談『真景累ヶ淵』落語と映画で楽しむ会」(12日)や「新真打四人の会(馬石、菊志ん他)/桃色婦人会」(13日)、「貞水の世界/『牡丹灯籠』親子リレー(扇橋他)」(14日)、「この人この噺(ひな太郎他)/東西新作落語対決(天どん他)」(15日)、「三枝・文珍・鶴瓶弟子の会/防衛らくご会」(16日)他が行なわれ、王子ホールでは「ミュージカルらくご」(14日)、「ゴスペル落語/サッチモ物語」(15日)、「若旦那たちの音楽会(花緑/小米朝)」(16日)等、音楽系のイベントが催された。

 

「大銀座落語祭2007」に参加した落語家の数は400人、観客動員数は5万人を記録した。2005年頃からの「落語ブーム」を加速させた大きな要素の一つがこの「大銀座落語祭」だったのは間違いない。だが逆に言うと、「落語ブーム」が訪れていたからこそ2007年の「大銀座落語祭」がこれだけの規模で成功を収めたのも確かだ。

 

規模が膨れ上がった「大銀座落語祭」のプログラムをよく見ると、「落語」祭でありながら、実は落語以外の要素に依存する傾向が強い。特に「究極の東西寄席」にそれは顕著だ。大掛かりな「祭り」を成立させるためには必要なことなのだろうが、やはり無理があると僕には思えた。

 

小朝が言う「落語会に行く日をハレの日にする」という発想は、低迷した落語に一般大衆の目を向けるためにはこの上なく有効だっただろう。だが、それはあくまでも「入口」である。

 

落語は、「演者を聴くもの」だ。ひとたび「落語の魅力」を知ったならば、そこから先は、「自分の好きな演者を追いかける」ということになる。お祭り騒ぎは必要ない。いっぺんに数万人を集める「大銀座落語祭」の方式は、落語の本質とは懸け離れたものだ。

 

落語が「ブーム」と言われるほどの状況を迎え、「落語というエンターテインメント」に目覚めた新たな観客層が、思い思いに自分の好きな演者を追いかけるのが当たり前になってきたら、無理にテレビでお馴染みの芸能人と絡めて「落語を知ってもらう」必要はない。

 

落語界に活気が戻り、新規参入のファン層が小朝の仕掛けとは別のところで人気公演のチケット争奪戦を繰り広げていた2007年、既に「大銀座落語祭」が果たすべき役割は終わっていた。

 

小朝にもそれはわかっていたのだろう。翌年、「大銀座落語祭2008」の概要が発表された時、そこには「今年でファイナル」と謳われていた。

21世紀落語史

広瀬和生(ひろせかずお)

1960年生まれ。東京大学工学部卒。ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN! 」編集長。落語評論家。1970年代からの落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に生で接している。また、数々の落語会をプロデュース。著書に『この落語家を聴け! 』(集英社文庫)、『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)、『談志は「これ」を聴け!』(光文社知恵の森文庫)、『噺は生きている』(毎日新聞出版)などがある。
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