苦みと豊潤、ニューシネマみたいな異形のカントリー―ニール・ヤングの1枚【第64回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

38位
『ハーヴェスト』ニール・ヤング(1972年/Reprise/米)

Genre: Country Rock
Harvest – Neil Young (1972) Reprise, US
(RS 82 / NME 71) 419 + 430 = 849

 

 

Tracks:
M1: Out on the Weekend, M2: Harvest, M3: A Man Needs a Maid, M4: Heart of Gold, M5: Are You Ready for the Country?, M6: Old Man, M7: There’s a World, M8: Alabama, M9: The Needle and the Damage Done, M10: Words (Between the Lines of Age)

 

カナダが生んだ、最も偉大なシンガー・ソングライターのひとりであり、ロック史の上に独立独歩の歩みを残すニール・ヤングの代表作のひとつが、4作目となるソロ・アルバムの本作だ。

 

彼はここでカントリー・ロックを指向した。だから、あの独特の、へろっとして一瞬頼りなさそうな高い声も、定評あるアコースティック・ギターも、「カントリーという様式」に寄り添う形となっている。そこに(こちらも定評ある)ヤングのとんがったエレクトリック・ギターのフレーズがときに突き刺さる、というのが基本構造だ。だからカントリーではあるものの、アメリカの保守性とはおよそ無縁の――というか、まったく逆の位相の――反骨精神満載の「ヤング節」が炸裂する1枚として、後年のオルタナティヴ・ロック・ファンにも人気が高い。日本で言う「アメリカン・ニューシネマ」調の西部劇をイメージすると、本作の印象にかなり近いはずだ。

 

そんな指向性を象徴するのが「アラバマ事件」だ。本作のM8、そして前作に収録のナンバー「サザン・マン」は、奴隷制の時代から連綿と続く、米南部における黒人差別や搾取へのストレートな批判だった。これらの曲に対して、サザン・ロックの代表的バンド、レーナード・スキナードが反応した。「アラバマを擁護する」との目的で書かれた彼らの曲では、ニール・ヤングが名指しで非難される。その曲「スウィート・ホーム・アラバマ」(74年)は大ヒットし、そしてときに、南部連合旗とともに、反動的な白人の記号として機能する代表的な1曲ともなってしまう。

 

と、そんな飛び火もおこってしまうぐらい、本作はヒットした。M4がヤング唯一の全米1位となったし、アルバムはこの年同国で最も売れた1枚と認定された。前年にヤングが脱退した、フォーク・ロックのスーパーグループ「クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSN&Y))」の根強い人気もヒットの後押しとなった。

 

隣にきわめて派手な国(=アメリカ)があるせいで、ときに軽視されがちなのだが、カナダは今日に至るまで数多くの優れた才能を輩出する、静かなる音楽大国(文学大国でもある)だ。その第一陣にあたる人々のなかに、ヤングがいた。60年代、バッファロー・スプリングフィールドの一員として最初に脚光を浴びた彼は、CSN&Yでのウッドストック参加を経て、この70年代に大きく飛躍していく。

 

次回は37位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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