爛熟のソフト・ロック、魔女がささやいた「噂」―フリートウッド・マックの1枚【第83回】
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

19位
『ルーモアズ』フリートウッド・マック(1977年/Warner Bros./米)

 

Genre: Rock, Soft Rock
Rumours – Fleetwood Mac (1977) Warner Bros., US
(RS 26 / NME 51) 475 + 450 = 925
※19位、18位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Second Hand News, M2: Dreams, M3: Never Going Back Again, M4: Don’t Stop, M5: Go Your Own Way, M6: Songbird, M7: The Chain, M8: You Make Loving Fun, M9: I Don’t Want to Know, M10: Oh Daddy, M11: Gold Dust Woman

 

とにかく売れた。発表当時、米英レコード店の一等地を支配した。たとえばイーグルス『ゼア・グレイテスト・ヒッツ 1971―1975』(76年)の隣などで。

 

イギリスで結成されたバンド、フリートウッド・マックの11枚目のスタジオ・アルバムが本作だ。そもそもはブルース・ロック・バンドとして67年にスタートしたのだが、このころは男女混成の5人組となり、音楽性も変化していた。男女混成バンドならではの、恋愛関係のいざこざも繰り広げられた。そして「そんな模様」がソースとなって、収録曲になった。愛の終焉を歌った「ドリームス」(M2)は、バンド唯一の全米1位シングルとなった。歌っていたのは、スティーヴィー・ニックスだ。

 

ミック・フリートウッドとジョン・マクヴィー、そしてマクヴィーの妻であるクリスティンの3人に、ニックスとリンジー・バッキンガムのアメリカ人カップルが加わったのが、75年以降のフリートウッド・マックだ。この体制下で初めて制作された前作は全米1位を記録。初めての巨大な商業的成功作となる。そして本作に至るまでの2年間で、すべてのカップルの絆は切れ、関係は壊れてしまう(それが歌になる)。その混沌のなかから浮上してきた世紀の歌姫こそ、ニックスだった。

 

カエル声と言えばいいのか、独特のしゃがれた声で抜群のパフォーマンスをおこなう彼女は、そのコケティッシュな魔女めいた容姿と相俟って、バンドを代表する人気者となっていく。映画『スクール・オブ・ロック』(03年)やTVドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー:魔女団』(13年)でもネタになったほどの、永遠のロック・アイコンが花開いたのはこの時期だ。本作では上記M2、M11でニックスがリード・ヴォーカルをつとめている。M9はバッキンガムと、M7はそこにクリスティンも加わり、いっ しょに歌っている。英語圏で言うところの「ソフト・ロック」のきわみのような、洒脱で豊かな歌世界がここにある。M4、M5、M8も人気が高い。

 

75年、ジョン・レノンはインタヴューのなかでこんな発言をしていた。「(アメリカの)音楽業界はすごく大きい。何10億ドル規模の産業で、思うに、いまは映画業界よりも大きいんじゃないかな」――そんな時代の爛熟のきわみ、その頂点にて燦然と輝いていたスーパー・ヒット作が、これだ。そして、こうした雲上人に自爆攻撃を仕掛けようとしたのが、77年以降のパンク・ロッカーたちだった。

 

次回は18位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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