akane
2018/10/08
akane
2018/10/08
Genre: Alternative Hip Hop
Paul’s Boutique-Beastie Boys (1989) Capitol, US
(RS 156 / NME 32) 345 + 469 = 814
Tracks:
M1: To All the Girls, M2: Shake Your Rump, M3: Johnny Ryall, M4: Egg Man, M5: High Plains Drifter, M6: The Sounds of Science, M7: 3-Minute Rule, M8: Hey Ladies, M9: 5-Piece Chicken Dinner, M10: Looking down the Barrel of a Gun, M11: Car Thief, M12: What Comes Around, M13: Shadrach, M14: Ask for Janice, M15: B-Boy Bouillabaisse
人呼んで「ヒップホップの『サージェント・ペパーズ』」。あのマイルス・デイヴィスをして「何度聴いても飽きない」とまで言わしめた1枚がこれだ。
本作は当初、商業的には低調だった。前作である彼らのデビュー作『ライセンスド・トゥ・イル』(86年)の印象が強烈だったからだ。爆発的にヒットした同作は、ヒップホップの歴史をねじ曲げた。「ラッパーは黒人でなければ」との世の固定観念に彼らは穴を開けた。ニューヨークで育ったユダヤ人3人組の「ワルガキ」が、まさに学生寮で狂ったパーティを繰り広げているようなその楽曲群は、またたく間にチャートを駆け上がっていった。大きな鳥かごに入れた半裸の美女に集団で缶ビールをぶっかけ(るという行為を本当にステージでやった)ーー「馬鹿でもいいじゃないか!」と大声で叫んでいるかのようなアンセムが、同作から多数生まれた。
しかし、彼らは本作で、変わった。「馬鹿な若者の代名詞」だったかもしれない彼らの名が、「クールの代名詞」へと転化し始めたのが、ここからだ。
前作が「キワモノ」ならば、本作は「正面から」ヒップホップの音楽性の限界に挑むものだった。声以外はほとんどサンプリングで組み上げられていて、アルバム全体では、その数なんと105をかぞえる。M15は1曲だけで24種のサンプル使用だ。共同プロデューサーとなった西海岸の雄、ダスト・ブラザーズの仕事だ。
分厚く綿密に組み上げられたタフなトラックの上で、切れ味抜群、3人の「掛け合い」ラップが高速で展開されていく……この全体像に、コアなヒップホップ・ファンがまず驚愕した。オルタナティヴ・ロック・ファンも反応した。かくして本作は、「ヒップホップ音楽全体の未来を構想した名盤」との評価を不動のものとする。
また本作は、彼らが活動拠点をロサンゼルスに移す先触れともなった。同地にてビースティーズはクリエイティヴな台風の目となった。インディー・レーベルや雑誌、アパレル、グラフィック・デザイン、映像……周囲に集まったクリエイターたちのなかには、のちにアカデミー賞を受賞する映画作家となる者もいた(スパイク・ジョンズ、マイク・ミルズ、ソフィア・コッポラなど)。ちょっとしたルネサンス現象のようなこの大波は、アメリカの先端都市はもちろん、ロンドンや東京にまで波及した。90年代の「ストリート」文化と呼ばれたものの一部がそれだ。
次回は53位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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