2018/09/27
大岩 ヴィレッジヴァンガードららぽーと立川立飛店店長・百合部部長
『夜と海』芳文社
郷本/著
今回紹介させていただくのは郷本先生の「夜と海」。美しくクールなクラスの高嶺の花である夜野月子と、思ったことはすぐ口に出してしまうノーテンキな水泳少女、内海彩の不器用な二人の関係を描いた物語だ。
この作品で最初に気になったのが、水を使った表現。キャラクターのモノローグがあるコマがまるで海中のように描かれたり、彼女たち二人が話す背景には水族館のようにたくさんの魚がいたりする。
冒頭が非常に印象的である。プールで彩が「す」と息を吸い、水中へ潜っていく姿をフェンスの向こうから眺める月子。「わずか一瞬 私は沈んだ」というモノローグとともに、月子は海中に沈んでしまうのだった。
息を吸う彩と、それを眺める月子との一瞬。冒頭の4ページで、私もすっかり撃ち抜かれてしまった。
衝撃的な出会いの後に、彩と同じクラスであったと気付いた月子。彩の姿を思い浮かべながら帰り道を一人で歩く月子の周りには、水中のごとく無数の魚が泳ぐのであった。
まるで映画やアニメのようなこの表現、二人がどちらかのことを考えたり思ったりするシーンで使われているように思う。月子が教室の後ろの席から一人ぼっちの彩を見つめる時や、満開の桜の中を歩く彩と月子の周りには、桜の花びらとともに魚が泳いでいる。
そういった会話のシーンやモノローグは何気ないものだが、二人の関係にとっては大事なのだろうなと思う。
黒髪のショートカットではきはきと話す彩と、金髪ロングヘアでとっつきにくい感じの帰国子女の月子。真逆といっていいほど対照的な二人がどのように触れ合っていくのだろうか。先ほど紹介した教室のシーンから、少しずつ分かってくる。
いつも友人に囲まれている月子だが、教室に一人でいる彩が気になってふと「あの子今日ひとりなのね」と友人に話す。するとその友人は「内海さんよく知らないけど 変わった子だからねえ」と返すのだった。月子は「みんなとおんなじ普通の子なのかと思ってた」と机に伏せっている彩を見つめる。そのコマが先ほど紹介したシーンだ。
月子はそんな彩にさらに興味を持ち、雨の中を帰ろうとする彩に傘を貸すのだった。
それをきっかけに、二人は普段からも会話を交わすようになる。どちらも人付き合いが苦手なためぎこちなさもあるが、その過程が読んでいてとてもほほえましい。
水の中に居場所を見出した彩と、その姿を美しいと思う月子。二人はちょうど水面あたりで繋がっていて、彩に導かれて水の中の世界をのぞくような、そんな関係なんじゃないかなと思った。まだ1巻なので続きが気になります。
ー今月のつぶやきー
最強のポテサラを見つけてしまった。味玉×焦がしネギ×天かす。もう優勝です。
『夜と海』芳文社
郷本/著