宇宙にブラックホールはどれくらいあるのか?――宇宙はなぜブラックホールを造ったのか(15)
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アインシュタインが予言した「重力波」

 

アインシュタインの一般相対性理論が予測した現象の中に、重力波があります。まず、重要なことは、一般相対性理論では重力は波として伝わることです。もし、ブラックホールや中性子星の連星があると、連星の軌道運動で周辺の時空が歪みます。そして、その歪みは重力波として周辺の空間に広がっていくことになるのです。アインシュタインは理論的には重力波はあり得ますが、実際に宇宙で観測されるようなことはないと思っていたようです。

 

重力波の存在は間接的には知られていました。パルサー(中性子星)の連星系である PSR B1913+16の軌道周期が短くなる現象が1974年に観測されたのです。この周期の減衰は連星系が重力波を放出してエネルギーを失うことで説明されます。

 

間接的ですが、これが重力波存在の最初の観測的証拠であると考えられています。

 

この観測を行なったアメリカの物理学者ラッセル・ハルス(1950-)とアメリカの宇宙物理学者ジョセフ・テイラー(1941-)には、1993年にノーベル物理学賞が授与されています。

 

しかし、今や時代は変わりました。人類は高感度の重力波天文台を運用し始めたからです。

 

そして、2016年。

 

アインシュタインが一般相対性理論を発表してから記念すべき100年後、重力波が検出されたのです。その天体の名前は GW 150914(GWはgravitational wave、重力波の略)。

 

この検出を成し遂げたのは、米国に設置されたレーザー干渉計型重力波天文台 LIGO (Laser Interferomeer Gravitational wave Obsevratoryの略)です。

 

重力波天文台がなすべきことは、重力による空間の歪みを検出することにあります。こういうと、簡単なことのように思われるかもしれません。しかし、言うは易く、行うは難しです。重力による時空の歪みは極めて小さいからです。LIGOは10−21の空間の歪みを捉えることができます。これは1光年(10兆キロメートル)の距離に対して、0・01ミリメートルの歪みを検出することに相当します。ハンフォードとリヴィングストンに設置された2台の重力波天文台LIGOは、GW 150914からの、この微かな歪みを見事に捉えたのです。

 

ブラックホール連星は少しずつ近づいていき、最終的には合体して一つのブラックホールになります。重力波はブラックホール連星が近づくにつれて強くなっていき、合体と同時に強度はゼロになります。これは「リング・ダウン現象」と呼ばれているものです。これらの一連の現象が見事に捉えられたのです。

 

重力波天文学の時代へ

 

LIGOはその後も数例のブラックホール連星の合体を検出しました。その中には中性子連星の合体も含まれています。重力波天文学の幕が開けたといってよいでしょう。

 

日本も、LIGOと同じような性能を持つ重力波天文台である KAGRA を建設中です。

 

ヨーロッパの VIRGOと共に、これらの重力波天文台が新たに稼働し始めると、重力波源の位置測定の精度が上がるので、より効率てきなフォローアップ観測ができるようになることが個体されています。

 

現在は、まだ位置測定精度が数十度と大きいため、世界中の天文台が光学対応天体の探査に乗り出して対応している状況です。これらは、あらゆる電磁波と重力波とのコラボレーションなので、「マルチ・メッセンジャー天文学」と呼ばれていますが、これ自身新たな天文学の研究手法として確立されつつあると言えるでしょう。

 

宇宙にブラックホールはどれくらいあるのか?

 

ところで、宇宙には何個くらいのブラックホールがあるのでしょうか。

 

この問いについては、ある程度答えることができます。

 

まず、超大質量ブラックホールは、銀河の中心には必ず存在することがわかってきています。宇宙にある銀河の個数は約1兆個であると推定されているので、超大質量ブラックホールの個数も約1兆個になります。

 

一方、恒星質量ブラックホールは大質量の残骸です。1個の銀河の中で、現在までに約1億個の大質量星が生まれてきたと考えられています。したがって、1個の銀河の中には約1億個の恒星質量ブラックホールがあることになります。宇宙全体では1兆個×1億個なので、1020個程度の恒星質量ブラックホールがあると推定されています。

 

※以上、『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』(谷口義明著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

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宇宙はなぜブラックホールを造ったのか

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谷口義明(たにぐちよしあき)

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