akane
2018/10/05
akane
2018/10/05
Genre: Worldbeat, Pop, Rock, Folk
Graceland-Paul Simon (1986) Warner Bros., US
(RS 71 / NME 124) 430 + 377 = 807
Tracks:
M1: The Boy in the Bubble, M2: Graceland, M3: I Know What I Know, M4: Gumboots, M5: Diamonds on the Soles of Her Shoes, M6: You Can Call Me Al, M7: Under African Skies, M8: Homeless, M9: Crazy Love, Vol. II, M10: That Was Your Mother, M11: All Around the World or the Myth of Fingerprints
グラミー賞を受賞(アルバム・オブ・ザ・イヤー)、今日までにおよそ1600万枚以上を売り上げた成功作なのに、同時にここまで叩かれたアルバムは絶後だろう。
本作は、シンガー・ソングライター、ポール・サイモンの7作目のスタジオ・アルバムだ。「アメリカの国民的アーティスト」だと言っていい存在が、60年代のサイモン&ガーファンクルだった。そんな彼が「叩かれた」理由はただひとつ、本作が録音されたのが南アフリカ共和国で、現地の音楽家を起用して制作されたからだ。
当時の南アは、まだアパルトヘイト(白人を支配層とした人種隔離政策)が維持されていた。ネルソン・マンデラもまだ獄中にいた。ゆえに西側諸国では、あらゆる圧力を行使して、同国に反省と変革を求めるべしとの声が強かった。文化的ボイコットもその一部だった。だから「その禁を破った」者として、サイモンは非難された。
しかし彼の行動を賞賛する者もいた。南ア音楽界の象徴、ヒュー・マセケラだ。同国の音楽を世界じゅうに広めるものだ、と高く評価していた。実際そのとおりになった。またサイモンの行為は「南アの音楽を南アの人々に」再発見させもした。
ンバカンガという、すでに南アのポップ音楽としては「流行遅れ」だったものを、このアルバムで彼は積極的に起用した。結果それが、ンバカンガの商業的復活にもつながっていった。伝統音楽であるイシタカミアも、モダンなポップやロックとミックスされた。これらの音楽的翼によって、サイモン自身が蘇生することにもなった。
83年に発表した前作が低調な結果に終わったあと、プライベートも含めて、サイモンは迷走の期間に入っていた。そんなとき、たまたま耳にした南ア音楽のカセット・テープに彼は魅了された。そして音楽家としての本能の赴くまま、南アへと飛んだ。本作の表題「グレイスランド」とは、エルヴィス・プレスリーの大邸宅の名だ。タイトル曲のM2では、ロック音楽の源流への郷愁が歌われる。「僕はグレイスランドに行くところ(I’m going to Graceland)」とのラインは、当初「僕はクルマで荒れ地を抜けていくところ(I’m driving through Wasteland)」というものだった。
傷だらけになったサイモンが、自らの「ルーツ」に立ち戻ろうとするときに、アフリカの音楽がその助けとなった。まさにプレスリーがかつて、ブルースを得ることによって、彼のヒルビリーを「ロカビリー」にしたように。
次回は54位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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