akane
2018/08/24
akane
2018/08/24
Genre: Rock
Darkness on the Edge of Town-Bruce Springsteen (1978) Columbia. US
(RS 150 / NME 109) 351 + 392 = 743
Tracks:
M1: Badlands, M2: Adam Raised a Cain, M3: Something in the Night, M4: Candy’s Room, M5: Racing in the Street, M6: The Promised Land, M7: Factory, M8: Streets of Fire, M9: Prove It All Night, M10: Darkness on the Edge of Town
彼の全キャリアの上で、きわめて重要な瞬間をとらえた1枚が、通算4作目となるこのアルバムだ。このときほとんど、スプリングスティーンは「終わりかけていた」。そして本作にて、見事なる復活を果たした。しかも、じつに彼らしく。
前作『ボーン・トゥ・ラン(邦題『明日なき暴走』)』(75年)にて初の全米トップ10入りを達成、一躍「時の人」となった彼が直面したのはマネジネントのトラブルだった。この争いは長期化し、なんと「解決までレコーディング不可」との裁定が下ってしまう。結果、3年近くの雌伏の期間を経て発表されたのがこのアルバムだった。そしてここには、(世間が待ち望んだだろう)前作のような疾走型のロックンロールはほとんど収録されなかった。しかし本作は熱い支持を獲得した。
本作のトーンを決定づけたのは、その「平熱感」だ。たとえば、土曜の夜に街の大通りを改造車でかっ飛ばす兄ちゃんの「高揚」を転写したのが前作だったとしたら、「それ以外の時間帯」の彼の心理の軌跡を丹念に描き出そうとしたのが、本作だ。ちょうど、ジャケット写真のスプリングスティーン自身の姿のような「どこにでもいる庶民」が日々体験するような、愛と喪失、鬱屈と痛みが刻み付けられた歌が並ぶ。
といっても、アルバムには陰鬱なトーンや、悲痛な重さはとくにない。ある種あっけらかんとした語り口は、フォークロアのそれに近い。あるいは、開拓時代の無法者を描いた西部劇的ストーリー……いや、やはり優れた米文学の短篇小説だろうか。
象徴的なナンバーがM1だ。明らかに人生がうまく行っていない、くすぶり系の男が彼女に向かって、愚痴のような、地に足がつかない曖昧な夢みたいなものを問わず語りする――というこの曲が、コンサートでは大合唱の1曲となる。華やかなコード進行のコーラス(サビ)部分がそれだ。「不毛の地、お前は毎日それを生なきゃならない(Badlands, you gotta live it everyday)」なんて苦いフレーズが、まるで讃歌のように高らかに響きわたり、聴く者の心を鼓舞する!のだ。勇気の源となるのだ。こうした重層的な構造が、この先のスプリングスティーンの得意技となっていく。
シングル・ヒットはなかったが、本作の収録曲は、彼のライヴでレパートリーとして定着するものが多かった(M5、M6、M10など)。この年〈NME〉は本作を年間ベスト・アルバムに選んだ。邦題は『闇に吠える街』だった。
次回は66位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ
Twitterはこちら@dsk_kawasaki
株式会社光文社Copyright (C) Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.