再臨した救世主のごとく、再定義したロックに永遠の命のともしびを―ザ・ビートルズの1枚(後編)
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

1位
『リヴォルヴァー』ザ・ビートルズ(1966年/Parlophone/英)

 

Genre: Rock, Pop, Psychedelic Rock
Revolver – The Beatles (1966) Parlophone UK
(RS 3 / NME 2) 498 + 499 = 997

 

 

Tracks:
M1: Taxman, M2: Eleanor Rigby, M3: I’m Only Sleeping, M4: Love You To, M5: Here, There and Everywhere, M6: Yellow Submarine, M7: She Said She Said, M8: Good Day Sunshine, M9: And Your Bird Can Sing, M10: For No One, M11: Doctor Robert, M12: I Want to Tell You, M13: Got to Get You into My Life, M14: Tomorrow Never Knows

 

(前編はこちら

 

 この曲が、M1「タックスマン」と、M3「アイム・オンリー・スリーピング」にサンドイッチされている様は、見事と言うほかない。ジョージ・ハリスン作の前者は、ハード・エッジなロックンロールだ。後者、「まだ眠いんだから起こさないで」ということだけを歌う、レノンらしいユーモアが光る曲だ。この3曲の幅の広さ、これらの断面がきれいに並ぶところに、彼らのマジックがある。もうひとつの「断面」、リンゴ・スターが歌う「イエロー・サブマリン」(M6)も人気曲だ。

 

 また「アンド・ユア・バード・キャン・シング」(M9)のような、初期から変わらぬ金看板「ギター・オリエンテッドなビートルズのロックンロール」も、きっちりとヴァージョンが更新されていることも、忘れてはいけない。マッカートニーとハリスンの「流れるような」ツイン・リードの見事さは、パワー・ポップのみならず、「ギター・ポップ」なる和製英語の理想像のひとつをも垣間見させた。

 

 そんな大充実の本作は、一面、彼ら初の「ドラッグ・アルバム」とも呼ばれている。LSDやマリワナの影響だ。そうなった理由は、このときのかの地が「世界の若者文化の首都」だったからだ。いわゆる「スウィンギン・ロンドン」というやつだ。

 

 モダン・ジャズとR&Bとスカをこよなく愛する「モッズ族」、ミニ・スカート、ポップ・アートに「前衛」アート、「ドラッグ」文化にフリー・セックス、なんと自国開催のサッカーW杯でイングランドが初優勝!……と、このときのロンドンは、きらびやかに、無垢に、恐れを知らない若者たちが、まさに「明日をも知れぬ」未来へと突進していこうとしていた。この空気を、ビートルズの4人も吸ってしまう。

 

 4人の古い友人であるクラウス・フォアマンが制作した、ジャケットの印象深いアートワークは、ヴィクトリア朝の世紀末を彩った異才、ビアズリーの線画からインスパイアされたものだ。「古いもの」を転生させて最前衛にすることにかけて、ヨーロッパの若い芸術家(もしくはちんぴら)には伝統の芸があったのだが、その最新の成果とも言えるものが、このときのイギリスの路上には吹き荒れていた。

 

 そんな渦中にビートルズの4人がいたことは、ありていに言って「奇跡にも近い幸運」だった。お陰でロックはここに「新しい命」を得た。「うまく使えば」幾度でも再生可能な「命の種」とも言えるアイデアをも、得ることができた。その事実の輝かしき記憶こそが、この1枚の隅々にまで満ちている魅惑的な脈動の正体なのだ。

 

次回は最終コラム「荒れに荒れた『究極100枚』ランキング・チャートを総括する」です!

 

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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