想像力を持つ人類という種に贈ったレノンの花束【第25回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

77位
『イマジン』ジョン・レノン(1971年/Apple/英)

Genre: Rock
Imagine – John Lennon (1971) Apple, UK
(RS 80 / NME 227) 421 + 274 = 695

 

 

Tracks:
M1: Imagine, M2: Crippled Inside, M3: Jealous Guy, M4: It’s So Hard, M5: I Don’t Want to Be a Soldier, M6: Give Me Some Truth, M7: Oh My Love, M8: How Do You Sleep?, M9: How?, M10: Oh Yoko!

 

タイトル・チューンの「イマジン」(M1)は、ジョン・レノンの代名詞と言っていいナンバーだ。ロックの、音楽の、いや大衆文化の広大な沃野のなかに、この1曲が存在しているということは、人類の達成として誇るべきことだと僕は考える。

 

「想像しなよ」と聴き手に呼びかけるこのナンバーは、平和を、相互理解を、愛し愛されることや、あらゆる「違い」を持つ人々がそのままに共存していくことの豊かさについて、訥々と語り上げるものだ。天国がないから地獄もなく、国々もないから、そのために殺したり死んだりすることもなく、宗教もない――そして、すべての人々が「世界のすべて」をシェアしていく……そんな世界を「想像してみなよ」と。

 

ときに「お花畑」呼ばわりもされる、理想主義の極致のような歌詞が、このナンバーの特徴だ。もっとも「そんなふうに言われるよね、きっと」というところは、レノン本人が先回りして考えていて、すでに歌のなかで言及してもいる(You may say I’m a dreamer のところだ)。そして(じつにレノンらしく)先に言い返してもいる。「でも僕だけじゃないんだ」と。理想主義者は、夢を見る者は、と。

 

そして実際問題、彼だけじゃない。「イマジン」を聴くといつも僕は、ユネスコ憲章の前文を思い出す。「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」という、あの有名な一文を含むものだ。この前文の精神の延長線上にあるのが、僕にとっての「イマジン」だ。日本国憲法の前文と9条も思い出す。レノンも国連も戦後日本も、第二次大戦の愚行と惨禍に「心底嫌気がさした」ところが出発点だという共通項があるのだ、と僕は考えている。

 

本作は、ソロ名義のアルバムとしては2枚目であり、スマッシュ・ヒット作ともなった。英米ほか各国での1位は当然としても、日本でのオリコン総合チャート1位は快挙と言っていい。まさに「ロックが世界を揺り動かしていた」時代がここだ。

 

M1以外も名曲揃いだ。これもスタンダードと化したM3など、スロー・ナンバーに傑作が多い。だからこそ逆に、M10のかわいらしさも光る。のちに奇行に走る(マスター・テープの持ち逃げなど)フィル・スペクターも、ここでは落ち着いた、品のいい作法でプロデュースをおこなっていて、好感度が高い。ジョージ・ハリスンと、バッドフィンガーの2人が参加しているところも見逃せない。

 

次回は76位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

この100枚がなぜ「究極」なのか? こちらをどうぞ

究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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