ようやく咲いた、弱々しくも「折れない」ロックの花【第51回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

49位
『ザ・ベンズ』レディオヘッド(1995年/Parlophone/英)

Genre: Alternative Rock, Indie Rock
The Bends-Radiohead (1995) Parlophone, UK
(RS 111 / NME 66) 390 + 435 = 825

 

 

Tracks:
M1: Planet Telex, M2: The Bends, M3: High and Dry, M4: Fake Plastic Trees, M5: Bones, M6: (Nice Dream), M7: Just, M8: My Iron Lung, M9: Bullet Proof..I Wish I Was, M10: Black Star, M11: Sulk, M12: Street Spirit (Fade Out) 

 

90年代初頭、米英を席巻したオルタナティヴ・ロックのブームが、まるで鎮火されたかのようにその勢いを失っていくなか、ただひとつ、焼け跡にて屹立していた一輪のか細いレンゲ草のような存在が彼らだった。ロックのかがり火は、この薄い肩に担がれていくことになる。ちなみにこのバンド名は、トーキング・ヘッズのアルバム『トゥルー・ストーリーズ』(86年)収録曲のタイトルから名付けられたものだ。

 

第2作となる本作は、彼らが最初に成功したアルバムだ。といっても、これ以前にもヒット曲はあった。92年に発表したデビュー・アルバム『パブロ・ハニー』からの先行シングル曲「クリープ」が、翌93年あたりから、世界じゅうの一部で激しく支持されていた。こんな曲だ。「でも僕はキモイ奴、ブキミな奴/ここで僕、なにやってんだろう?/いるべき場所じゃないのに」――といった、めそめそした泣き虫調のラインと、チェーンソーがうなりを上げるような轟音ギターとの合体が、気弱なインディー・キッズの心をつかんだ。ベックのヒット曲「ルーザー」(94年)と並んで、負け犬系オルタナ・ロックの決定版的ナンバーとして、歴史に足跡を残した――その一方で、アルバムのほうはセールスも評価も、ほとんど無風状態だった。

 

だから本作の課題とは、「『クリープ』の成功律」をアルバム・サイズにまで敷衍すること、だった。盛大なるギター・ロック・サウンドを彼らは目指し、それは見事に達成された。本作は、英〈メロディ・メーカー〉誌の年間ベスト・アルバムの6位に選出される。オアシスの『(ホワッツ・ザ・ストーリー)モーニング・グローリー』、これはイギリスにおいては超巨大怪獣級の大ヒット名盤だったのだが、それが同3位だった年にこの順位なのだから、快挙と言っていい。轟音のM1、M2もいいが、「クリープ」のアコースティック版、多少明るめなアナザー・ヴァージョンとも言えそうなM3も印象深い。M12も小規模ながらシングル・ヒットとなった。

 

本作のプロデュースは、ストーン・ローゼズのファースト・アルバムで名高いジョン・レッキーが手掛けた。難産だった制作中、煮詰まっていたヴォーカリストにして中心人物のトム・ヨークに、ティム・バックリィのライヴを観に行くようにアドバイスしたのは彼だ。それは見事な効果を発揮して、ヨークを立ち直らせたという。彼らの次回作は、奇遇にも、バックリィの急死の直後にイギリスで発表された。

 

次回は50位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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